レビューの論点
このレビューでは、緩和ケアが認知症の人やその家族・介護者の助けになるかどうかを検討することを目的とした。また、研究者がどのようにして緩和ケアの効果を測定したかについても調べた。
背景
認知症の人は、精神的な能力や身の回りの世話をする能力が徐々に低下する。終末期は長期にわたるため、最終的な末期を特定することは難しい。認知症が進行すると、言葉によるコミュニケーションができなくなり、他人に完全に依存し、嚥下(飲み込み)が困難になり、しばしば尿・便失禁を経験するようになる。認知症が進行すると、椅子やベッドから離れられなくなることが多く、肺炎などの感染症のリスクが高まる。
緩和ケアとは、治癒が不可能な疾患を有する人への特別なケアの方法である。緩和ケアの主な目的は、死が近づくにつれて痛みを軽減し、可能な限りのQOL(生活の質)を維持することである。緩和ケアは、がんの人にはよく使われるが、認知症の人にはあまり使われていない。
試験の特徴
2020年10月までに発表された研究を調べた。2,122人を対象とした9件の適切な研究が見つかった。研究は、アメリカ、カナダ、イギリス、ヨーロッパで行われた。2件の研究は病院で、7件の研究は老人ホームや長期介護施設で行われた。
主な結果
6件の研究では、終末期認知症の人へのケアが体系化され、提供される方法の変化を検証した。5件の研究では、これらの変化により、穏やかに死を迎えることができる可能性があるとしているが、研究デザインの問題や研究間の結果の違いにより、この結果は非常に不確実なものとなっており、全体的にはほとんど、あるいは全く違いがない可能性があるとしている。また、ケアの体系化や提供方法が変わることで、終末期認知症の人が自分のケアに対する適切なプランを持っている可能性が高くなるかもしれないが、この結果は1件の研究から得られたものであり、やはり非常に不確かなものである。ケアの体系化や提供方法を変えることは、ケアへの非緩和ケア的アプローチの使用に影響は与えず、認知症の人、その家族、介護者、医師や看護師の間で、彼らが受けたいと思っている緩和ケアの性質や種類について話し合うことにも、ほとんど、あるいは全く影響を与えないだろう。
2件の研究によると、認知症の人とその家族が事前に計画を立てることを支援することで、認知症の人が自分の受けたい治療について記載した文書(アドバンスケアプラン)を持っている可能性や、自分のケアについて医師や看護師と話している可能性を高める。また、1件の研究では、事前に治療に関する意思を示すことで、医師や看護師が考えるケア目標と、認知症の人が考えるケア目標との間に、わずかながらも合意が得られる可能性があった。しかし、ある研究によると、家族の介護者が認知症の人の症状をうまく管理できていると感じるかどうかに、計画は影響しないかもしれない。
結論
これまでの研究では、認知症の方やその家族のために、緩和ケアをどのように活用すればよいのか、明確にはわかっていない。終末期認知症の方を対象とした研究は、倫理的な問題からほとんど行われていない。しかしながら、認知症患者を対象とした研究は困難とはいえども、この集団に緩和ケアを最善に活用する方法を検討するため、よりすぐれたデザインの試験が求められれる。
《実施組織》 堺琴美、冨成麻帆 翻訳[2021.10.21] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011513.pub3》