レビューの論点
生殖補助医療を受けている不妊症の女性の子宮内に妊娠ホルモンを投与したら、何らかのメリットがあるのか。
背景
不妊症はカップルの15%にみられ、避妊をしていない性交を定期的に12か月間続けていても、自然に妊娠しない状態と定義されている。生殖補助医療とは、精子と卵子を共に培養室で処理して胚を作り、子宮に移植(胚移植(ET))することをさす。生殖補助医療を受けている不妊症の女性の子宮に、天然または合成の妊娠ホルモンを投与することは、赤ちゃんを持つ可能性を高めるかもしれない新しい手法である。
研究の特性
妊娠ホルモンの投与とホルモン投与なしを比較した17件の研究(4751人の女性を含む)を評価した。天然または合成されたホルモンは、ET前の異なる回数・量で投与されていた。
主要な結果
子宮内にヒト絨毛性ゴナドトロピン(IC-hCG)を500IU未満の用量で投与され、3日目胚のETを受けた女性の出生率は、妊娠ホルモンを投与せず3日目胚のETを受けた女性と比較して、介入の有益性を示さず、実質的な違いや不利益の大きさが特定できないことと一致している(非常に質の低いエビデンス:1つの研究、280人の女性)。3日目胚のET後の1周期あたりの出生率が49%のクリニックでは、500IU未満の妊娠ホルモンを投与した場合の出生率は28~50%の間でばらついていた。
500IU以上の妊娠ホルモンを投与され、3日目胚のETを受けた女性群では、妊娠ホルモンを投与しないで3日目胚のETを受けた女性群と比較して、出生率が上昇した(中程度のエビデンス:3件の研究、914人の女性)。1周期あたりの出生率が27%のクリニックでは、500IU以上の妊娠ホルモンを投与すると、出生率は36~51%の間になると考えられる。
5日目胚のETを受けた女性において、妊娠ホルモンを500IU以上投与した場合、妊娠ホルモンを投与されなかった女性と比較して、出生率に実質的な差がないことが示された(中程度のエビデンス:2件の研究、1666人の女性)。1周期あたりの出生率が36%のクリニックでは、500IU以上の妊娠ホルモン投与量を使用すると、出生率は29~38%であった。
妊娠ホルモンを子宮内に投与した場合、その量やタイミングが流産に影響を与えたかどうかは不明である(非常に質の低いエビデンス:11件の研究、3927人の女性)。
妊娠ホルモンを500IU未満の用量で投与して3日目胚のETを受けた女性の臨床妊娠率は、妊娠ホルモンを投与しなかった3日目胚のETを受けた女性と比較して、介入の有益性を示さず、実質的な違いや不利益の大きさが特定できないことと一致している(非常に質の低いエビデンス:1件の研究;280人の女性)。
500IU以上の妊娠ホルモンを投与した3日目胚のETを受けた女性群では、妊娠ホルモンを投与しなかった3日目胚のETを受けた女性と比較して、臨床妊娠率が上昇した(中程度のエビデンス:12件の研究、女性2186人)。
500IU以上の妊娠ホルモンを投与した5日目胚のETを受けた女性では、妊娠ホルモンを投与しなかった5日目胚のETを受けた女性と比較して、臨床妊娠率に実質的な差はないことが示された(中程度のエビデンス:4件の研究、2091人の女性)。
妊娠ホルモン投与量が500IU未満の5日目胚のETについて調査したランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。
含まれた研究で報告された他の合併症は、異所性妊娠(胚が子宮の外で発育する)、子宮内外同時妊娠(胚が子宮の内側と外側に同時に着床し発育する)、胎児死亡、および品胎(三つ子)であった。イベント数が少なく、エビデンスの質が非常に低く不十分であったため、群間の違いがあるかどうかを判断することはできなかった。
この介入によって最も恩恵を受けるであろう女性群を特定するために、出生率を主要なアウトカムとするさらなる試験が行われるべきである。
エビデンスの質
エビデンスの質は、結果によって非常に低いものから中程度のものまで様々であった。エビデンスの全体的な質に関する主な限界は、バイアスのリスクが高いことと深刻な不正確さの存在であった。
《実施組織》杉山伸子 小林絵里子 翻訳[2020.11.24]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011537.pub3》