人工授精やタイミング療法による妊娠を希望する、不妊症の女性における黄体補充療法は、安全で有効か。

背景

黄体期は、月経周期の一部であり、排卵(卵子が卵巣から放出されること)から月経が始まるまでの期間をさす。この時期には、プロゲステロンというホルモンが卵巣から体内に分泌され、妊娠の可能性に備える。卵巣刺激(排卵誘発剤の使用)は、黄体期のプロゲステロン産生に影響を与える可能性がある。黄体期のプロゲステロン濃度が低い場合、12週以上継続する妊娠や生児出産などの妊娠転帰の可能性が低下することが知られている。プロゲステロン、およびヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG、妊娠すると産生されるホルモンで、プロゲステロン産生を増やす)や排卵後のプロゲステロンの値を増やすゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストなどの薬剤を用いた黄体補充療法は、妊娠の転帰を改善させると考えられている。

研究の特徴

25件のランダム化比較試験(参加者を2つ以上の治療群のうちの1つに無作為に割り当てるタイプの試験)を組み込み、合計5,111人の参加者を対象とした。プロゲステロンとプラセボ(ダミーの治療)または無治療との比較、腟に挿入するプロゲステロン剤の異なる用量、異なる経路で補うプロゲステロン、GnRHアゴニストとプラセボまたは無治療との比較、腟に挿入するプロゲステロン剤とGnRHアゴニストとの比較、hCGと無治療との比較など9種の比較が確認された。すべての研究で妊娠の経過が報告されていたが、有害事象を報告した研究は1件だけであった。対象となったすべての研究が、人工授精について報告していた。人工授精とは、腟から子宮頸部を通して挿入した細くて柔らかい柔らかいプラスチック製のチューブを用いて精子を直接子宮に入れる方法である。自然に妊娠を目指す場合の黄体補充療法の効果を評価した研究はなかった。

主な結果

プロゲステロンの補充とプラセボまたは無治療の比較

腟に挿入するプロゲステロン剤は、評価したどの卵巣刺激周期(ゴナドトロピンの注射、ゴナドトロピンの注射と経口薬の併用、経口薬単独)においても、プラセボまたは無治療と比較して、生児出産率と継続的妊娠率を高めるかどうかは不明であった。プロゲステロンが流産率を下げるかどうかは不明である。腟に挿入するプロゲステロン剤は、臨床的妊娠(超音波検査で確認され、心拍が検出された妊娠)をわずかに増加させる可能性がある。プロゲステロンの補充は、どの卵巣刺激周期(ゴナドトロピンの注射、ゴナドトロピンの注射と経口薬の併用、経口薬単独)においても臨床妊娠をわずかに増加させる可能性がある。しかし、エビデンスの確実性が低いため、事前に取り決めていた他の評価項目(有害事象や多胎妊娠(双子や三つ子を妊娠すること))に対して、この治療が差をもたらすかどうかは不明である。

プロゲステロン腟剤300mgと600mgの比較

プロゲステロン腟剤300mgがプロゲステロン腟剤600mgと比較して、生児出産、妊娠継続、流産、有害事象に影響を与えるかどうかは不明である。

腟に挿入する方法と比較した、プロゲステロンの投与経路の違い

プロゲステロンの他の投与経路(筋肉内注射、経口薬、皮下注射)が、腟に挿入するプロゲステロン剤と比較して、生児出産、妊娠継続、流産に影響を与えるかどうかは不明である。プロゲステロンの筋肉内注射は、有害事象(注射部位の痛み)を大幅に増加させる可能性があるが、エビデンスの確実性は非常に低いものであった。

他の介入とプラセボまたは無治療との比較

GnRHアゴニストやhCGの注射などの他の介入が、事前に取り決めていた評価項目に影響を与えるかどうかはわからない。

エビデンスの確実性

ほとんどの比較において、エビデンスの確実性は非常に低度か低度であった。エビデンスの主な限界は、研究方法の報告が不十分であることと、研究に参加した女性の数が少ないことによる不正確さであった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、阪野正大 翻訳 [2022.10.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012396.pub2》

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