健康上の問題点は何か?
上部の永久犬歯(糸切り歯)は、上あごに左右に1本ずつ生えている。しかし、約1%から3%の小児では、正しい位置に萌出(口の中に生えてくること)しないことがある。犬歯が口蓋(口の中の天井部分)の方向に成長し、埋伏歯(歯肉に埋まったままの状態)になってしまうことがある。これは口蓋側転位犬歯(PDC:palatally displaced canine)と呼ばれる。犬歯が生えずに残っていると、隣の歯を傷つけたり、位置を変えたりすることがあり、時にはのう胞を形成することもある。
PDCにはどのような治療方法があるのか?
PDCの治療には、外科手術によって歯を露出させた上で、長期的な矯正治療を行うことが必要となり、長い時間がかかることがある。そのため、歯の萌出を促進するための、より早く、より簡単な方法、例えば、乳犬歯を抜歯する方法、乳犬歯と第一乳臼歯を抜歯する方法、または矯正装置を用いて口の中に萌出のためのスペースをつくる方法などが考案されている。
何が知りたかったのか?
9歳から14歳の小児において、上記の手術をせずにPDCを萌出させる方法が有効かどうかについて明らかにすることを試みた。
何を行ったのか?
2021年2月3日までに報告された、さまざまなPDCの治療方法の有効性を評価した研究について検索が行われた。
同じ事象について同じ、または似たような方法で評価が行なわれていた研究は、治療の効果についてより明確な見解を得るために、結果が統合された。また、個々の研究にバイアスがないかどうかを評価し、エビデンスに対する全体的な信頼性が判断された。
主な結果は?
合計199人の小児を対象とした4件の研究が見つかった(195人の被験者が分析対象となった)。
9歳から14歳の小児における乳犬歯の抜歯は、抜歯後12か月までに、手術を行わなくてもPDCが正常に口腔内に萌出する確率を高める可能性があるという非常に弱いエビデンスが見つかった。また、PDCを矯正するための手術を必要とする小児患者数を減少させるというエビデンスはなかった。
2本の乳歯の抜歯は、1本の乳歯の抜歯に比べ、抜歯後18か月までにPDCが萌出する確率を増加させたり、あるいは抜歯後48か月までにPDCを矯正するための手術を必要とする小児患者数を減少させるというエビデンスはなかった。
PDCの正中からの変位の程度が、介入の可否を決定する上で重要であることを示唆するいくつかの限られたエビデンスが存在した。それによると、PDCが正中から大きく離れている場合には、治療の成功率が低くなるようであった。
これは何を意味するのか?
本レビューにより、エビデンスの信頼性は非常に低いことが判明した。よって、正常に萌出しない上顎の犬歯に対する最適な治療法を見出すためには、さらなる研究が必要である。
《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2022.10.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012851.pub2》