慢性神経筋疾患患者に対する咳を介助する技術の安全性と有効性

レビューの論点

慢性神経筋疾患患者の咳を介助する為に用いられる技術(咳誘発技術)の有効性及び安全性におけるエビデンスのレビューを行った。

背景

神経筋疾患(筋肉に影響を及ぼす神経関連疾患)患者は咳をして気道にある粘液物質を排除することが困難であり、窒息、肺の感染症の再発、肺疾患進行の危険がある。徒手的な咳の介助、バギング(一般的に蘇生に使用される自己膨張式バッグの使用)、機械的な咳の補助(気道に陽圧をかけた後、瞬時に陰圧に切り替えることで分泌物を排除する機械)、カエル呼吸(大量の空気を取り込む補助をする呼吸技術)、ブレススタッキング(息を何度も吸い、呼吸の合間に息を吐かずに呼吸を重ねる)といった咳誘発技術は咳の有効性を促進する、また結果として肺感染症に罹患する頻度もしくは重症度(または両方)を減らし、日常生活活動(機能的能力)や生活の質を改善する目的がある。

方法

神経筋疾患の成人または小児患者における咳誘発技術に関する研究について幅広いデータベースから検索した。最も良いエビデンスを提供する種類の研究であるため、対象者をランダムに治療法、治療順序を割り当てた研究を検索した。

結果とエビデンスの質

287名を対象とした11の研究が検索され、いくつかの咳誘発技術を用いていた。1つの研究は治療の長期的な効果を計測していたが、研究結果を正確に分析するために十分な情報がない要約のみの発表であった。検索された多くの研究は研究方法と結果の報告のどちらか、もしくはその両方に関して問題があり、研究結果を十分に解釈することは困難であった。咳誘発技術の有効性と安全性を判断する為に最も重要と考えられた結果を報告した研究はなかった。例えば、肺の感染症による予定外の病院の入院回数や入院期間、生存率、機能的能力、生活の質については報告されていなかった。咳誘発技術の安全性については判断できなかった。いくつかの研究では咳誘発技術が介助なしの咳と比較して良いのではないかと提案していたが、結果は非常に不確実である。ある咳誘発技術が咳の努力性を改善する点において、他の技術より有効であるといった十分なエビデンスは見つからなかった。

結論と提言

このレビューでは、慢性期神経筋疾患患者に対し、いつ、どのように咳誘発技術を使用するか判断する十分な情報が得られなかった。慢性期神経筋疾患患者に対する咳誘発技術の安全性、および有効性についてはエビデンスの確実性が非常に低く、さらなる研究が必要である。

このエビデンスは2020年4月13日までのものである。

訳注: 

《実施組織》久保田純平、冨成麻帆 翻訳[2021.05.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013170.pub2》

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