レビューの論点
糖尿病がある人が、視力を脅かす糖尿病合併症である増殖糖尿病網膜症や高リスク増殖糖尿病網膜症を発症する確率を増減させる要因を調べたいと考えた。
背景
糖尿病では、血糖値の上昇によって、目の奥にある網膜という視力のもとになる層の細い血管が、長い時間をかけて傷つけられる。これを「糖尿病網膜症」と呼ぶ。糖尿病や糖尿病網膜症がある人の中には、網膜に異常でもろい血管、いわゆる「新生血管」が生じる人がいる。新しい血管ができると「増殖性糖尿病網膜症」といい、「PDR」とも呼ばれる。この新しい血管は弱く、眼球内で出血することがあり、「硝子体出血」と呼ばれる症状を引き起こす。目の中の血液が視力を奪うが、自然に治ったり(たまに治る)、手術すれば、ほとんどの場合、視力は回復する。また、新しい血管の上に瘢痕組織が成長することもある。瘢痕は網膜を引っ張り、牽引性網膜剥離と呼ばれる、糖尿病網膜症で最も深刻な視力低下をもたらす合併症を引き起こす可能性がある。牽引性網膜剥離は、速やかに手術で治療しなければ、全盲になる可能性がある。
糖尿病がある人のほとんどが糖尿病網膜症を発症するが、このような重篤な合併症に至る人はごくわずかである。その理由は不明である。視力低下は、早期に治療を行えば、通常、予防することができる。そのため、PDRに進行するリスクのある人を把握し、その人たちをしっかりフォローして、タイムリーに治療することが必要である。なぜPDRを発症する人がいるのか、そのリスク因子を明らかにするために、このレビューを行った。
研究の特徴
糖尿病網膜症の治療を受けたことのない糖尿病がある人を長期にわたって追跡調査し、PDRを発症した人、PDRが重症化した人(「高リスク特性PDR」(HRC-PDR)と呼ぶ)を特定した研究を対象とした。レビューに含めるために、これらの研究はPDRとHRC-PRのリスク因子(例えば、血糖値、血圧、コレステロール、腎臓病など)を調査する必要があった。本レビューでは、性別、民族、性的指向、社会経済的地位、国家を問わず、あらゆる言語で書かれた成人(18歳以上)を対象とした研究を対象とした。
主な結果
見つかった6391件の論文のうち、59件の研究(87件の文献)が適格であり、レビューに含めた。血糖値が高い(糖尿病のコントロールが悪い)、糖尿病網膜症が進んでいる(糖尿病による網膜の変化が大きい)人は、PDRになるリスクが高いことが分かった。また、腎臓病がある人はPDRに進行するリスクが高いようである。また、若くして診断された1型糖尿病がある人や、トリグリセリド値(トリグリセリドはコレステロールと同じく血液中の脂肪の一種)が高い人、網膜静脈の直径が大きい人などは、PDRの発症リスクが高い可能性があると言われている。調査した他のリスク因子、例えば、糖尿病の期間、血圧、コレステロールはPDRのリスク因子ではないようである。HRC-PDRのリスク因子を分析するには、対象となった研究からの情報が十分でなかった。
著者らの結論
血糖コントロールが不十分な1型または2型糖尿病がある人は、PDRの発症リスクが高い可能性がある。すでに糖尿病網膜症の初期段階である人でも、血糖コントロールを改善することで、PDRへの進行を防ぐことができる可能性があることを示すエビデンスがある。また、腎臓病がある人は、PDRに進行するリスクが高くなる可能性がある。さらに、若くして診断された1型糖尿病がある人や、中性脂肪値が高い人、網膜静脈が太い人は、PDRを発症しやすいと考えられる。
このレビューの更新状況
エビデンスは、2022年5月27日までのものである。
《実施組織》 阪野正大、小林絵里子 翻訳[2023.05.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013775.pub2》