メニエール病に対して副腎皮質ステロイド剤を耳の中(鼓室)に直接投与することの利点とリスクは何か?

要点

強固なエビデンスが不足していたため、副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与がメニエール病の症状の改善に有効であるかどうかは明らかではなかった。また、治療に伴うリスクの可能性についても明らかではなかった。

この治療が有効であるかどうかを明らかにし、有害作用について評価を行うためには、より大規模で適切に実施された研究が必要である。

また、メニエール病患者の症状を評価するための最善の方法を明らかにし、治療が有益であるかどうかを評価するためには、さらなる研究が必要である。これには「コアアウトカムセット」(メニエール病に関するすべての研究で測定すべき項目のリスト)の開発が含まれるべきである。

メニエール病とは何か?

メニエール病は、内耳に起こる疾患であり、浮動性めまい(ふわふわ浮くような感覚)や回転性めまい(ぐるぐる回るような感覚)の発作を繰り返し、聴覚障害、耳鳴り(リンギング:キーンという高音、ハミング:ブンブンという低音、あるいはバジング:ブーンという低音)、耳が詰まった感覚(耳閉感)または圧迫感を伴う。通常は成人の、特に中年期に発症する。

メニエール病はどのように治療されるのか?

メニエール病の治療には、まず内服薬(錠剤)が使用されることが多いが、症状が改善しない場合は、副腎皮質ステロイド剤を耳の中(鼓室)に直接投与することがある。これは鼓膜から注射するのが一般的だが、鼓膜にグロメットと呼ばれる小さなチューブを挿入し、副腎皮質ステロイドを滴下する方法もある。

何を調べようとしたのか?

以下の項目について調査を行った。

- 副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与がメニエール病の症状を軽減するのに有効であるというエビデンスがあるかどうか

- この治療が重大な傷害や他の有害作用(鼓膜に穴が開くなど)を引き起こす可能性があるかどうか

何を行ったのか?

副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与について、治療を行わなかった場合、または偽薬(プラセボ)を使用した場合とを比較した研究について検索を行った。

何が見つかったのか?

合計952人の参加者を対象とした10件の研究が見つかった。研究期間は3か月間から2年間であった。

- めまいの改善については、6か月から1年、あるいは2年間の追跡調査において、副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与が行われた場合と投与が行われなかった場合(またはプラセボ)との間にはほとんど差が認められなかった。

- めまいの経験回数については、副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与によって減少する可能性があるが、その減少回数はわずかであった。これは、3か月から6か月間追跡調査が行われた場合の結果だが、より長期間の追跡調査においても効果が見られるかどうかは不明であった。

- 副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与によって、重篤な有害作用が増加するかどうかについては不明であった。

エビデンスの限界は何か?

研究のほとんどが非常に小規模で、試験の実施に関する問題があったため、研究結果に対する信頼性は低く、エビデンスに対する信頼性は非常に低い。また、未発表の大規模な研究が2件あったが、その結果は本レビューに含めることができなかった。レビューに含まれた研究からは、副腎皮質ステロイド剤の鼓室内投与は有効ではない可能性が示唆されたが、もし、2件の大規模な研究のデータを含めることができた場合、本レビューのいくつかの結論は異なっていた可能性がある。

異なる治療法がどの程度効果的であるかについて検証するためには、より大規模かつ適切に実施された研究が必要である。さらに、研究者は、得られた知見にかかわらず、研究結果について公開すべきである。

このエビデンスはいつのものか?

2022年9月時点におけるエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2023.07.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015245.pub2》

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