潰瘍性大腸炎の治療にはスルファサラジン(SASP)が長年使用されてきました。 SASPはサルファ分子に結合した5-アミノサリチル酸(5-ASA)でできています。 SASPによる治療を受けた患者の3分の1までに副作用が起こり、これは本分子のサルファ部分に関連していると考えられています。 SASPによる高頻度の副作用は、悪心、消化不良、頭痛、嘔吐、腹痛などです。 5-ASA薬は、SASPによる副作用を避けるため開発されました。総計8,127名の参加者の38件のランダム化試験をこのレビューに選択しました。 寛解維持について、経口投与の5-ASAは、プラセボ(偽薬)より有効であるという所見が得られました。 経口投与の5-ASAは潰瘍性大腸炎の寛解維持に有効ですが、スルファサラジン(SASP)よりも有効というわけではありません。 状態がよくなった人は、どちらかの薬を続けることによってその状態を維持できます。一方の薬が他より副作用が多いというエビデンスはありません。 しかし、5-ASAはSASP療法より副作用が著しく少ない可能性があります。 5-ASAによる高頻度の副作用は、鼓腸、腹痛、悪心、下痢、頭痛、消化不良、鼻咽頭炎(鼻道の炎症)などです。 5-ASAをSASPと比べている試験の大半は、SASPで副作用がなかったとわかっている患者を組み入れていました。 このため、これらの試験ではSASPに関連した副作用が減少していた可能性があります。 男性不妊は5-ASAにはみられずSASPにみられるため、子供をもちたい患者は5-ASAを希望すると考えられます。 5-ASA療法はSASPより高価なため、コストを重視する場合はSASPを選択すると考えられます。 潰瘍性大腸炎の寛解維持について、1日1回の経口投与の5-ASAは、通常投与(1日2~3回投与)と同程度の有効性および安全性でした。 有効性および安全性について様々な5-ASA製剤間に差はないようでした。 広汎性または頻回再発性潰瘍性大腸炎患者は、高用量の維持療法により利益を得る可能性があります。 高用量の安全性は低用量と同程度のようであり、副作用の罹患率が高くなることはありません。
潰瘍性大腸炎の維持療法について5-ASAはプラセボより優れていた。 しかし、5-ASAはSASPに比べて統計学的に有意な治療的劣性を有していた。 無活動性潰瘍性大腸炎の寛解維持について、1日1回の経口投与の5-ASAは、通常投与と同程度の有効性および安全性であった。 有効性および安全性について様々な5-ASA製剤間に差があるようではなかった。 広汎性または頻回再発性潰瘍性大腸炎患者は、高用量の維持療法により利益を得る可能性がある。 高用量の安全性は低用量と同程度のようであり、有害事象の罹患率が高くなることはない。
経口投与の5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤は、スルファサラジン(SASP)の治療的利益を維持しながら有害作用を避けることを意図したものであった。 以前に、5-ASA薬はプラセボよりも有効であるが、SASPに比較して統計学的に有意な治療的劣性を有するという所見が得られた。 本更新レビューには最近の研究を含め、無活動性潰瘍性大腸炎の寛解維持に使用される5-ASA製剤の有効性、用量反応性、および安全性を評価した。
主要目的は、無活動性潰瘍大腸炎の寛解維持に対する、プラセボ、SASP、または他の5-ASA製剤と比べた経口投与の5-ASAの有効性、用量反応性および安全性を評価することであった。 副次目的は、経口投与の5-ASA1日1回投与の有効性および安全性を通常(1日2~3回投与)投与レジメンと比較することであった。
MEDLINE、EMBASEおよびコクラン・ライブラリを用いて、関連性のある研究についての文献検索(~2012年1月20日)を実施した。 その後追加された研究を同定するため、レビュー論文および学会の抄録も検索した。
最短で6ヵ月の投与期間のランダム化比較臨床試験の研究の場合は、解析の対象に含めることを許容した。 無活動性潰瘍大腸炎の患者の治療に対する経口投与の5-ASAをプラセボ、SASPまたは他の5-ASA製剤と比較している研究を選択の対象として考慮した。 1日1回の5-ASA投与を通常の5-ASA投与と比べた研究および5-ASA用量範囲探索研究も選択の対象として考慮した。
主要アウトカムは臨床的寛解または内視鏡的寛解の維持の失敗であった。 副次アウトカムとして、遵守、有害事象、有害事象による中止、参加後の中止または除外が挙げられた。 試験は5つの比較群に分けられた:5-ASA対プラセボ、5-ASA対SASP、1日1回投与対通常投与、5-ASA対5-ASA競合薬、および5-ASA用量範囲探索。 プラセボコントロール試験を投与法によりサブグループに分けた。 1日1回投与対通常投与の研究を製剤別のサブグループに分けた。 5-ASAコントロール試験を、使用頻度の高い他の5-ASA製剤(アサコールおよびサロフォークなど)によるサブグループに分けた。 用量範囲探索研究を5-ASA製剤によるサブグループに分けた。 各アウトカムについて相対リスク(RR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。データのITT解析を行った。
38件の研究(患者8,127名)を選択した。選択した研究の大多数のバイアスは、低リスクと評価された。 8件の研究のバイアスは高リスクと評価された。これらの研究のうち6件は単盲検で2件の研究はオープンラベルであった。 しかし、2件のオープンラベル研究および単盲検研究のうち4件では、研究者実施の内視鏡検査をエンドポイントとして使用しており、バイアスを防止していた。 5-ASAは、臨床的寛解または内視鏡的寛解の維持について有意にプラセボより優れていた。 再発した患者は、プラセボ患者の58%に対し5-ASA患者では41%であった(7件の研究、患者1,298名、RR 0.69、95%CI 0.62~0.77)。 5-ASA用量が高くなるにつれ有効性が大きい傾向がみられ、 1~1.9g/日(RR 0.65、95%CI 0.56~0.76)および2g/日超(RR 0.73、95%CI 0.60~0.89)のサブグループでは、統計学的に有意である利益がみられた。 SASPは、寛解維持について有意に5-ASAより優れていた。 再発した患者は、SASP患者の43%に対し、5-ASA患者では48%であった(12件の研究、患者1,655名、RR 1.14、95%CI 1.03~1.27)。 GRADE解析では、プラセボコントロールおよびSASPコントロール研究での主要アウトカムについてのエビデンスの全体的質は高いと示された。 5-ASAの1日1回投与と通常投与に有効性または遵守について統計学的に有意である差は認められなかった。 12ヵ月間に再発した患者は、通常投与患者の31%に対し1日1回投与患者では29%であった(7件の研究、患者2,826名、RR 0.92、95%CI 0.83~1.03)。 薬物療法レジメン遵守に失敗した患者は、通常投与患者の11%に対し1日1回投与の患者では14%であった(5件の研究、患者1,161名、RR 1.21、95%CI 0.90~1.63)。 有効性について様々な5-ASA製剤間に差があるようではなかった。 再発した患者は、5-ASA競合薬群の患者の37%に対し5-ASA群では38%であった(5件の研究、患者457名、RR 1.01、95%CI 0.80~1.28)。 2件の研究のプール解析では、有効性についてバルサラジド6g/日と3g/日に統計学的に有意である差は示されなかった。 再発した患者は、3g/日群の患者の33%に対し6 g/日群では23%であった(患者216名、RR 0.72、95%CI 0.46~1.13)。 1件の研究では、バルサラジド4g/日は2g/日より優れているという所見が得られた。 再発した患者は、バルサラジド2g/日群の患者55%に対し4g/日群では37%であった(患者133名、RR 0.66、95%CI 0.45~0.97)。 1件の研究では、サロフォーク顆粒3g/日と1.5 g/日とに統計学的に有意である差を認めた。 再発した患者は、サロフォーク1.5g/日群の患者39%に対し3g/日群では25%であった(患者429名、RR 0.65、95%CI 0.49~0.86)。 高頻度の有害事象は、鼓腸、腹痛、悪心、下痢、頭痛、消化不良、鼻咽頭炎などであった。 5-ASAとプラセボ、5-ASAとSASP、5-ASA1日1回投与と通常投与、5-ASAと5-ASA競合薬、 および5-ASA用量範囲探索研究において有害事象の罹患率について統計学的に有意である差はなかった。 5-ASAとSASPを比較した試験の大半は、SASP関連の有害事象が最小限しかみられないSASPに忍容性があることが既知の患者を組み入れていたため、 SASPを支持するバイアスがかかっていた可能性がある。