レビューの論点
アルツハイマー病による認知症にドネペジルはどのような効果(有益性や有害性)があるのか?
背景
アルツハイマー病は最も一般的な認知症の原因である。病気が進行すると、記憶力やコミュニケーション能力、明確な思考力、日常生活行動ができなくなる。また、行動が変化する可能性もある。重度アルツハイマー病では、身の回りのことをする能力も失われる。
アルツハイマー病の治療によく使われるのは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤と知られる薬である。ドネペジルもこの薬の一種である。1日1回錠剤として服用する。
アルツハイマー病では、脳の変化の一つにコリン作動性神経細胞と呼ばれる神経細胞の減少がある。これはアセチルコリンという化学物質を使って、他の細胞に信号を送る神経細胞のことである。ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、アセチルコリンが分解されるのを防ぐ働きをする。これにより、認知症の症状が改善される可能性がある。しかし、アセチルコリンは体内の他の場所にも存在しているため、この種類の薬は望ましくない影響を及ぼす可能性がある。
レビューの方法
このレビューでは、ドネペジルを12週間以上服用した場合とプラセボ(偽薬)とを比較した研究、またはドネペジルの投与量を変えて比較した研究の有益性と有害性に関するエビデンスを検討した。組み入れた研究は二重盲検で無作為化されているものでなければならない。つまり、参加者がドネペジルかプラセボを服用するかの決定は無作為に行われることが必要であり、参加者も研究者も、試験が行われている間、どちらの治療を受けているのかを知るべきではない。これは、できるだけ偏りのない、つまり公平な比較をするためであった。本レビューは2017年5月までのものである。本レビューに含めたすべての研究の質を評価した。研究の結果を統合して分析することで、全体的な結果を得ることができた。
主な結果
8,257人の参加者を対象とした30件の研究を含めた。多くはアルツハイマー病による軽度または中等度の認知症だったが、9件の研究では中等度または重度の認知症の患者を対象とした。ほとんどの研究は半年以内に終了している。大半の研究は、ドネペジルのメーカーから資金提供を受けていたことが分かっている。
アルツハイマー病患者がドネペジルを1日10mgを6ヶ月間服用した場合、プラセボを服用した患者に比べて、認知機能(思考や記憶など)、日常生活動作の管理能力、訓練を受けた研究者の全体的な印象がわずかに良好な結果が得られたことが分かった。行動や生活の質への影響は見られなかった。
ドネペジルを服用している人は、プラセボを服用している人よりも副作用を報告したり、研究を途中でやめたりする可能性が高かった。ほとんどの副作用は軽度と記載されていた。また、副作用には吐き気、嘔吐、下痢が最も多かった。
1日5 mgのドネペジルと1日10 mgのドネペジルを比較すると、5 mg投与群では副作用は少なかったが、認知機能テストの成績はわずかに劣っていた。高用量(23 mg/日)では何の利点もなく、より多くの副作用と関連していた。
ドネペジルの使用は、医療費の総額を考慮した場合、プラセボよりも高くも低くもないというエビデンスがある。
エビデンスの質
全体として、エビデンスの質は中等度であった。信頼性を下げる主な要因は、一部の研究の結果にバイアスがあるのではないかという懸念があった。半年以上の治療を受けた患者には、この結果が適用されるかどうかは確信されていない。
結論
半年間の治療後、ドネペジルは研究で測定できるほど効果が大きかった。伴う副作用は主に軽度のものではあるが、人によっては治療を中止することもある。
認知機能や日常生活動作を安定させることができるかどうかは、臨床的に重要である。総医療費の観点から見ると、ドネペジルの使用は妥当であると考えられる。しかし、生活の質には影響がないようである。疾患の進行や常にケアが必要な状態になるまでの時間を測る長期の臨床研究では、より多くのデータが必要とされる。
《実施組織》冨成麻帆、季律 翻訳[2020.08.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001190.pub3》