健康な成人に対するインフルエンザ予防のためのワクチン

レビューの目的レビューの目的

1999年に初めて出版されたこのコクランレビューの目的は、インフルエンザの流行期にインフルエンザワクチンを接種した健康な成人の免疫に与える効果をみた研究を要約することであった。我々は、ワクチンを接種した群とダミーワクチン接種群又は何もしなかった群を比較したランダム化比較試験から得た情報を利用した。我々は、化学的にインフルエンザウイルスを殺すことによって開発され、皮膚を通して注射される不活化インフルエンザワクチンについて調査している研究の結果に焦点を当てた。我々は、インフルエンザ感染が確認された成人の数や、頭痛、高熱、咳、そして筋肉痛のようなインフルエンザ様の症状(インフルエンザ様疾患: Influenza-like illnessまたはILI)を呈する成人の数の減少に関するワクチンの効果について評価した。我々はまた、ワクチンによって発生する入院や害についても評価した。前バージョンのレビューに含まれていた観察研究は、歴史的な理由からそのまま使用していたが、レビューの結論に影響を与えないためアップデートしていない。

本レビューから分かったこと

200以上のウイルスがインフルエンザと同様の症状(熱、頭痛、疼痛、疼痛、咳、そして鼻汁)を呈するインフルエンザ様疾患の原因となる。臨床検査なしでは、医師はインフルエンザ様疾患とインフルエンザとの区別ができない。なぜなら、両疾患は共に数日間持続し、重篤な病気や死亡の原因となることはめったにないからである。世界保健機関(WHO)の季節性インフルエンザワクチンに関する勧告によると、インフルエンザワクチンに含められるウイルスの型は、通常はインフルエンザの次の流行期での流行が予想されるウイルスが含まれている。パンデミック・ワクチンは、パンデミックの原因である特定のウイルスの菌株のみを含む(例えば、2009年から2010年のパンデミックを起こしたインフルエンザウイルスA型H1N1)。

主な結果

計8万名超の成人が対象となる52の臨床試験を見つけた。本研究に含めた研究の約70%は、詳細が不十分な報告であったためにバイアスの影響を結論付けることができなかった。本研究に含めた研究のおよそ15%は、研究デザインが優れており適切に運営されていた。 我々は、不活化ワクチンについて調査した25の研究結果から得られた報告に焦点を当てた。1名のインフルエンザ症例を予防するために71名がワクチン接種する必要があり、1名のインフルエンザ様疾患症例を予防するために29名がワクチン接種する必要がある。インフルエンザワクチンの注射製剤にはおそらくインフルエンザやILIに対する小さな防御効果がある(エビデンスの確実性は”中等度”)。ワクチン接種の、入院(エビデンスの確実性は”低”)あるいは労働時間の減少に対しての明らかな効果は殆ど無いか全くないかもしれない。

不活化インフルエンザワクチンによる妊婦のインフルエンザ様疾患やインフルエンザに対する予防効果は不確実、あるいは少なくとも非常に限定的である。

妊娠中の季節性インフルエンザワクチンの投与は、流産や新生児死亡については有意な効果を認めなかったものの、観察研究によるエビデンスであった。

要点

不活化ワクチンは、インフルエンザやインフルエンザ様疾患を患う健康な成人(妊婦を含む)の割合を減少させるが、その影響は軽微なものである。インフルエンザの流行期におけるインフルエンザによる労働時間の減少やインフルエンザの重篤な合併症に対する不活化ワクチンの効果はわかっていない。

本レビューの更新状況

このエビデンスは、2016年12月31日現在のものです。

訳注: 

《実施組織》安福祐一 翻訳 井村春樹 監訳[2018.08.29] 《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001269》

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