早産児や低出生体重児への授乳のための人工乳(ミルク)とドナー母乳の比較

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レビューの論点

母親の母乳が得られない場合、早産児や低出生体重児にドナー母乳ではなく人工乳(ミルク)を与えると、消化、成長、重度の腸の問題のリスクに影響を与えるのか?

背景

早産児の場合、人工乳(ミルク)は母乳よりも消化しづらいことが多く、重度の腸の問題を引き起こすリスクが高まることが懸念されている。母親からの母乳が不足していたり、利用できなかったりする場合、早産児に人工乳(ミルク)ではなく、ドナー母乳(訳注:もらい乳(母親以外の人から得られる母乳)のこと。)を与えれば、これらの問題のリスクを減らすことができるかもしれない。しかし、ドナー母乳は多くの場合人工乳(ミルク)よりも高価であり(訳注:欧米では民間の母乳バンクが複数あり、輸血用血液のように、必要な人が対価を支払って利用する。日本にも母乳バンクがあるが、現状では対価は個人負担ではなく、施設としての負担である。)、早産児や低出生体重児の最適な成長を確保するための主要な栄養素が十分に含まれていない可能性がある。これらの懸念を考慮して、早産児や低出生体重児への授乳について、人工乳(ミルク)とドナー母乳を比較した臨床試験から得られるすべてのエビデンスをレビューした。

研究の特徴

12件の完了した試験を発見した(1871人の乳児が対象となった)。ほとんどの試験、特に最近実施された試験では、信頼性の高い方法が用いられていた。エビデンスは2019年5月3日現在のものである。

主要な結果

これらの試験のデータを総合的に分析した結果、人工乳(ミルク)を与えることで入院中の成長率は向上するが、「壊死性腸炎」と呼ばれる重篤な腸疾患を発症するリスクが高くなることが明らかになった。児の生存や長期的な成長・発達に影響を及ぼすエビデンスはない。

結論

現在利用可能なエビデンスは、早産児が自身の母親の母乳を利用できない場合にドナー母乳ではなく人工乳(ミルク)を与えることが、成長速度の向上と関連していることを示唆しているが、壊死性腸炎を発症するリスクがほぼ2倍になることも示唆している。もっと大規模な試験がより強力で正確なエビデンスを提供することで、臨床医や家族がこの問題について十分な情報に基づいた選択をできるようになるだろう。現在、国際的に4つの試験(1100人以上の乳児を対象とする)が進行中であり、これらの試験のデータが入手可能になった時点で、本レビューに含める予定である。

訳注: 

《実施組織》 小林絵里子、内藤未帆 翻訳 [2020.11.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CDCD002971.pub5》