手術後の深部静脈血栓症や肺塞栓症の予防に膨張式スリーブや薬は有効か?

要点

- 足に装着する膨張式スリーブ(間欠的空気圧迫法)と薬剤の併用により、膨張式スリーブのみの場合と比較して、肺や脚に血栓が新たに発生する割合が減少する可能性がある。

- 膨張式スリーブと投薬を併用することで、投薬のみの場合と比較して、脚の血栓の新規発生率が減少し、肺塞栓の新規発生も減少する可能性がある。

- 膨張式スリーブに薬剤を追加すると、膨張式スリーブのみの場合に比べて出血のリスクが高まる可能性がある。

なぜこの疑問が重要なのか?

深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症は、総称して静脈血栓塞栓症と呼ばれ、脚の静脈内で発生した血栓が肺に移動することで発症する。手術や外傷後の入院中、あるいはその他のリスク要因によって起こりうる合併症である。これらの合併症は入院期間を延長し、長期的な障害や死亡につながる。股関節や膝関節の全置換術(整形外科の手術)や大腸がんの手術を受ける患者さんは、静脈血栓塞栓症のリスクが高いと言われている。血流が悪くなったり、血が固まりやすくなったり、血管壁が傷ついたりすると、血栓ができやすくなる。これらの要因のうち2つ以上を治療することで、予防効果が高まる可能性がある。機械的な間欠的空気圧迫法では、膨張式スリーブで足を包んだり、フットポンプを使用する。脚とその静脈に優しく圧をかけることで血液の流れを促進させる。一方、アスピリンや抗凝固剤などの薬は、血液が固まりにくくする働きがある。これらの薬は、薬物による予防法(血栓を予防するための薬)として知られている。しかし、これらの薬は出血のリスクを高める可能性もある。 血栓塞栓症を起こさないために圧迫と薬を組み合わせることが、圧迫と薬のどちらか一方だけの場合よりも効果的であるかどうかを調べた。

わかったこと

圧迫と投薬の併用と、圧迫または投薬のみを比較した研究を検索した。34件の研究が見つかり、合計14,931人が参加していた。参加者の平均年齢は62.7歳であった。ほとんどの参加者は、リスクの高い手術か疾患を抱えていた(14件の研究では整形外科手術、残りの研究では泌尿器科、心臓外科、脳神経外科、外傷、一般外科、婦人科、またはその他のリスク要因)。

圧迫のみの場合と比較して、圧迫と投薬の併用の方が、肺塞栓症の新規発症率を減少させることができた(19件の研究、5,462人の参加者)。また、DVTも、圧迫のみの場合と比較して、圧迫と投薬を併用した場合の方が減少した(18件の研究、5,394人の参加者)。しかし、圧迫に薬剤を追加した場合、圧迫のみの場合に比べて、何らかの出血を起こすリスクが1%から5.9%に増加した。大出血も、同様のパターンをとり、0.3%から2.2%に増加した。さらに、参加者のタイプ別(整形外科手術と整形外科手術以外の参加者)に見た分析でも、DVTのリスクは同程度であった。肺塞栓症については、サブグループ間の差を評価することはできなかった。

投薬のみの場合と比較して、圧迫と投薬の併用は、肺塞栓症を減少させる点で優れていた(15研究、6,737人)。DVTも圧迫と投薬の併用群で減少した(17研究、6,151人)。出血の発生率には差がなかった(6研究、1,314人)。さらに、参加者の異なるサブグループを調べた解析では、整形外科手術かそれ以外の間で肺塞栓症やDVTの発生率に全体的な差は見られなかった。

エビデンスの確実性

エビデンスの質は高いものから極めて低いものまであった。全体的に血栓が生じた数が少なかったことや、出血の定義が研究間で異なっていたことから、研究がどのように行われたかについての懸念があった。

本レビューの更新状況

本レビューは、前回のレビューを更新したものである。エビデンスは2021年1月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳 [2022.02.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005258.pub4》

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