要点
- 不妊治療薬とは、女性が妊娠するために使われる一連のホルモンや薬をさす。このレビューでは、広く使用されている2つの不妊治療薬(ゴナドトロピンと抗エストロゲン薬)を比較した結果、ゴナドトロピンの方がおそらく出生数を増加させることが示された。
- 他の不妊治療薬の有効性の比較については、出生率と多胎妊娠(2人以上の赤ちゃんを妊娠すること)の両方において、信頼できるエビデンスがほとんど得られなかった。
- エビデンスを向上させるために、今後の子宮内人工授精の研究では、不妊治療薬とプラセボ(偽薬)を比較する必要がある。また、抗エストロゲン剤とアロマターゼ阻害剤(これも広く使用されている不妊治療薬である)を比較した研究も必要である。
不妊症とは?
不妊症とは、1年以上の間、避妊せずに定期的に性交を続けても妊娠していない状態をさす。自然妊娠しやすさは年齢とともに低下するため、医師は女性の年齢によって治療方針を変えることがある。35歳以上の女性であれば、6ヶ月が経った時点で不妊症として治療を行う医療機関もある。
不妊症の治療はどのように行われるか?
不妊症の治療は、その原因によって異なる。このレビューでは、さまざまな不妊治療薬を併用した子宮内人工授精に焦点を当てた。不妊治療薬は、排卵を促すホルモンを分泌させることで、卵巣から卵子が放出されるように働く。子宮内人工授精は、腟から子宮頸部に挿入した細くて柔軟なプラスチックチューブを使って、精子を子宮に直接入れる治療法である。
不妊治療薬にはさまざまな種類がある。よく処方されるものは以下のとおりである:
- ゴナドトロピン(月経周期の初期から開始するホルモン注射で、複数の卵子を成熟した大きさに成長させることができる)、
- 抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤(いずれも排卵を誘発する飲み薬)、
- ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストおよびアンタゴニスト(卵子の発育や排卵を調整するために使われる薬剤)。
何を知りたかったのか?
月経周期に伴って卵子を放出できている(排卵可能な)女性に対して、どの不妊治療薬と子宮内人工授精の組み合わせが最も効果的であるかを調べた。
以下の項目に対する不妊治療薬の影響について検討した:
- 生児の出産(出生率)、
- 多胎妊娠 、
- 臨床的妊娠、すなわち胎嚢(胎芽を含む液体で満たされた子宮内の構造物)と胎児心拍が確認できた状態、
- 妊娠12週までの流産、
- 卵巣過剰刺激症候群(過剰なホルモンが卵巣を過剰に刺激し、さまざまな合併症を引き起こす状態、OHSSと略す)、
- 異所性妊娠(子宮以外に妊娠すること)。
何をしたのか?
排卵を認めている女性が子宮内人工授精を受ける際の、異なる不妊治療薬について比較した研究を検索した。
その結果を比較してまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいて、エビデンスに対する信頼度を評価した。
何がわかったのか?
82件の研究が特定され、参加した女性は12,614人であった。18歳から44歳までの女性が参加していた。2/3を超える研究(57件)で、原因不明不妊、男性不妊、子宮内膜症(子宮の内膜に似た組織が子宮の外に増殖して痛みを伴う状態)、またはこれらの要因のうち2つ以上を持つ女性またはカップルが対象となっていた。
これらの研究は世界17カ国で行われ、半数以上がインド、イラン、イタリア、スペイン、米国で実施されていた。
さまざまな不妊治療薬について、20以上の異なる比較が行われていた。
出生率に関する情報を報告した研究は、全体の約1/5(17件)にとどまった。
主な結果
ゴナドトロピンと抗エストロゲン剤との比較(13件の研究): ゴナドトロピンは、おそらく出生率を高めると思われる。抗エストロゲン剤による出生率を22.8%とすると、ゴナドトロピンによる出生率は23.7~34.6%であった。
ゴナドトロピンが多胎妊娠率に違いをもたらすかどうかはわかっていない。
アロマターゼ阻害剤と抗エストロゲン剤との比較(8件の研究) :
アロマターゼ阻害剤が以下の項目に対して違いをもたらすかどうかはわからない。
- 出生率、
- 多胎妊娠率。
ゴナドトロピンとGnRHアンタゴニストの併用とゴナドトロピン単独との比較(14件の研究):
ゴナドトロピンとGnRHアンタゴニストの併用で、以下の項目に対して違いをもたらすかはわからない。
- 出生率、
- 多胎妊娠率。
アロマターゼ阻害剤とゴナドトロピンとの比較(6件の研究): アロマターゼ阻害剤は、出生率を低下させる可能性がある。ゴナドトロピンによる出生率を31.9%と仮定すると、アロマターゼ阻害剤による出生率は13.7~25%となる。
アロマターゼ阻害剤が多胎妊娠率に違いをもたらすかどうかはわかっていない。
アロマターゼ阻害剤とゴナドトロピンの併用と抗エストロゲン剤とゴナドトロピンの併用との比較(8件の研究):
アロマターゼ阻害剤とゴナドトロピンの併用が、以下の項目に対して何か違いをもたらすかどうかはわからない。
- 出生率、
- 多胎妊娠率。
エビデンスの限界は何か?
エビデンスに対する信頼度は、非常に低いものから中程度のものまであった。研究のうち3/4以上が、研究手法上の弱点が結果の信頼性に影響を与える可能性があり、また多くの研究が小規模なものであった。
このレビューの更新状況
エビデンスは2020年11月までのものである。
《実施組織》 杉山伸子、内藤未帆 翻訳 [2022.02.13]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005356.pub3》