論点
母乳育児(BF)は、子どもの健康、母親の健康、母子の絆を向上させることができる。母乳で育った乳児は、胃や呼吸の問題の発生率が低く、耳の感染症が少なく、発話、視力、身体的・精神的スキルの総合的な発達が良好である。世界保健機関(WHO)は、乳児には生後6ヶ月まで母乳のみを与え、その後2才以上まで年齢に応じた補完的な食事と並行して母乳を与え続けることを推奨している。多くの女性がこの推奨を実行できていないので、我々は女性に対するBF支援をどのように行えば良いのか知りたかった。
重要である理由
出生前のBF教育では、赤ちゃんが生まれる前に妊娠中の女性にBFについて教えている。女性が母乳を与えられない理由の一つには、BFの方法に関する教育や知識が不足していることが挙げられる。妊婦のBFの知識を向上させることで、母乳育児期間が長くなると考えられるが、どのような教育が女性に一番役立つのかはわかっていない。
得られたエビデンス
10,056人の女性を対象とした24件の研究をレビューに含め、9789人の女性を対象とした20件の研究によるデータを解析した。ほとんどの研究は、米国、カナダ、英国、オーストラリアなどの高所得国で行われた。妊娠中のピア・カウンセリング、授乳相談、および正式なBF教育は、BFの実施率や期間を改善するようには見えない。しかし、異なる環境下で行われたいくつかの大規模な試験(ナイジェリアとシンガポールでの研究)では、教育が役立つことを示すエビデンスが見られた。
結論
出産前のBF教育が女性に役立つかは、いまだに明らかではない。現在のところ、妊婦を教育する努力によって、BFがより多く、より長くなるという効果を示唆するランダム化比較試験からの良好なエビデンスはない。出産前に標準的なケアを受けている女性は、BF教育を余分に受けている女性と同じくらいの割合でBFを選ぶ傾向がある。出生時および生後6ヵ月時のBF実施率に関する研究の結果は確かであり、それによるとBF教育はこの決定に影響を与えていないようである。生後3ヶ月と6ヶ月での母乳のみによる育児に与えるBF教育の影響については、いくつかの疑問が残る。BF教育は女性の助けになっていないように思われるが、今後の研究で理解が変わるかもしれない。今後の研究によって、妊娠中のBF教育が生後3ヶ月のBF状況に与える影響についての理解が変わってくる可能性がある。このレビューの研究のほとんどは高所得国で行われたものであり、他の環境にも今回の結論があてはまるとは言えない。
《実施組織》 小林絵里子、杉山伸子 翻訳[2020.08.28]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006425.pub.4》