がん患者の血栓に対する長期治療に用いる抗血栓薬

背景
がん患者では血栓(血管内にできた血液の塊)の発生リスクが高く、各種の抗血栓薬(抗凝固薬)に対する反応も人によって異なる。

試験の特性
複数の科学データベースから、深部静脈血栓症(手足の血栓)または肺塞栓症(肺の血栓)と診断が確定されたがん患者を対象に、異なる種類の抗血栓薬を用いた長期治療が血栓の再発に与える影響について検討した臨床試験を検索した。臨床試験の選択にあたり、がん種、がん治療の種類は問わなかった。選択した臨床試験では、生存率、血栓の再発、出血、(血栓に関連する)血液中の血小板数について検証していた。エビデンスは2018年5月現在のものである。

主な結果
血栓症を合併したがん患者計5,167例を登録した16件の試験を見出した。これらの試験では、低分子ヘパリン(LMWH)(静脈内に注射する抗血栓薬)はビタミンK拮抗薬(VKA)(経口投与する抗血栓薬)よりも血栓の再発を減らす効果が高かった。入手できたデータからは、これらの薬物による死亡および副作用である出血に与える影響ついて明確な答えは得られなかった。また、直接経口抗凝固薬(DOAC)(経口投与する抗血栓薬)は低分子ヘパリンよりも血栓の再発を減らす効果が高い可能性はあるが、出血リスクが高くなることも判明した。死亡、血栓の再発、出血について、直接経口抗凝固薬(新しい経口抗血栓薬)とビタミンK拮抗薬(従来の経口抗血栓薬)を比較したところ、明確な答えは得られなかった。

エビデンスの信頼性
低分子ヘパリンとビタミンK拮抗薬の比較では、血栓の再発、1年時における死亡および大量出血に関するエビデンスの確実性は中等度、少量の出血に関するものは低いと判定した。

直接経口抗凝固薬とビタミンK拮抗薬の比較では、死亡、血栓の再発、出血に関するエビデンスの確実性は低いと判定した。

編集者注:これはLiving Systematic Reviewである。Living Systematic Reviewは、関連する新たなエビデンスが利用可能になった時点でレビューに組み込むことによってレビューを継続的に更新するという、系統的レビューの新たな更新手法を提案するものである。本レビューの現在の状況については、Cochrane Database of Systematic Reviewsを参照されたい。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)八木佐和子 翻訳、尾崎由記範(虎の門病院、臨床腫瘍科)監訳 [2018.09.12]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD006650》

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