背景
頻繁な胸部感染症は長期的な肺の炎症を引き起こす。炎症を引き起こす細胞から酸素(活性酸素(ROS))が産生され、それが体の組織に害を与える(酸化的損傷)可能性があるため、体は自分を守るために抗酸化物質を利用する。嚢胞性線維症(CF)の人では、抗酸化物質が低値であるのに比べて、活性酸素は高値である。抗酸化サプリメントは酸化的損傷を減らし、抗酸化物質のレベルを上昇させる可能性がある。
CF患者は脂肪の吸収が困難なため、脂溶性抗酸化物質(ビタミンEとβ‐カロテン)のレベルが低い。水溶性ビタミンCは年齢とともに減少し、細胞内に最も豊富に存在する抗酸化物質の1つであるグルタチオンは、CF患者の肺に適切に放出されない。抗酸化物質の働きを助ける酵素のいくつかは無機セレンに依存しているため、セレンのサプリメントは抗酸化作用を高めることを目的とする。
ほとんどのサプリメントは内服だが、グルタチオンや(体内でグルタチオンを作るために使われる)N-アセチルシステイン(NAC)は吸入することもできる。このような物質は抗酸化物質としてだけでなく、吸入すると粘液が薄くなる(粘液の排出が容易になる)ため、肺機能にも影響を与える可能性がある。
検索日
このレビュー更新版の最後の検索日は2019年1月8日である。
試験の特性
20件の研究(924人のCF患者、男女比はほぼ同数、年齢は6カ月から59歳)をレビューの対象とした。そのうち、16件の研究で経口サプリメントとプラセボ(「見せかけの」治療)が比較されており、4件の研究で吸入サプリメントとプラセボが比較されていた。
主な結果
経口サプリメント
NACによって3カ月で肺機能(1秒間の強制呼気量(FEV1)%予測値)が変化するかどうかは不明であるが(4件の研究、参加者125人、非常に質の低いエビデンス)、6カ月後にはおそらくNACによってFEV1%予測値が改善されたと2件の研究(参加者109人)が報告している(中等度のエビデンス)。ある研究(46人)では、ビタミンとセレンのサプリメントを併用した場合よりも、プラセボ群の方が、2カ月後のFEV 1 %予測値の変化が大きいことが報告されていた。別の研究(61人)では、6カ月後のNACと対照群との間でQOL(生活の質)スコアにほとんど差がないことが報告されていた(中等度のエビデンス)が、2カ月間のビタミンとセレンを併用した研究では、対照群のQOLスコアがわずかに改善したことが報告されていた。NACはおそらくボディマス指数(BMI)に影響を与えなかった(1件の研究、62人の参加者、中等度のエビデンス)。ある研究(69人)では、ビタミンとミネラルを混合したサプリメントは、マルチビタミンサプリメントよりも、6カ月後の肺増悪(肺機能の低下や症状悪化など)のリスクを低下させる可能性があると報告していた(質の低いエビデンス)。9件の研究(参加者366人)では、副作用に関して群間にはっきりとした、また一貫性のある違いは認められなかった(エビデンスの質は低いものから中等度のものまで)。ビタミンEとβ-カロテンの研究では、一貫して血液サンプル中にこれらの抗酸化物質のレベルが高いことが報告されている。
吸入サプリメント
2件の研究(258人)では、プラセボと比較して、吸入グルタチオンによっておそらく3カ月の時点ではFEV1%予測値が改善されたが、6カ月の時点では改善がみられなかった(中等度のエビデンス)。これらの研究ではまた、プラセボと比較して、グルタチオンの方が両時点でFEV1 (リットル)の改善が大きいことも報告されている。2つの研究(258人)では、QOLスコアの変化にほとんど差がないか、全くないことがわかった(中等度のエビデンス)。2カ月間の研究1件(16人)と12カ月間の研究1件(105人)では、BMIの変化に群間差はなかったと報告されている。6カ月間の研究1件では、最初の肺増悪までの期間に差はなかった。2件の研究(223人)では、副作用については群間で差がないと報告されており(質の低いエビデンスの質)、別の研究(153人)では、重篤な副作用の数は群間で同程度であったと報告されている。
結論
ビタミンやミネラルのサプリメントは、臨床結果を改善することはないようであった。グルタチオンを吸入すると肺機能が改善されるようだが、経口投与すると酸化ストレスが低下し、肺機能や栄養対策に効果がある。CFや慢性感染症の人に集中的に抗生物質を投与したり、他の治療を並行して行うということは、非常に大規模で長期間の研究でなければ、抗酸化物質の効果を評価することが難しい。今後の研究では、抗酸化物質がCFTRモジュレーター治療(CFの原因となるタンパク質を標的とする治療)を受けているCF患者にどのような影響を与えるかを検討する必要がある。
エビデンスの質
エビデンスの質は、非常に低いものから中等度のものまでであった。1件を除いてすべての研究に多少のバイアスがあった。ほとんどはデータが完全に報告されていなかったためである(結果に影響を与える可能性が高い)。また、参加者がどのような治療を受けたかを事前に知っていたかどうか、また研究が始まってから知っていたかどうかはほとんどわからなかった(これがどのように結果に影響するかは不明)。
《実施組織》山本依志子、ギボンズ京子 翻訳 [2020.04.12]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007020.pub4》