このレビューは、2012年に初版が発表され、その後2014年と2018年に更新されたもののアップデート版である。
論点
このコクラン・レビューの目的は、術後の感染予防に最も効果的な帝王切開前の皮膚処置方法が何かを明らかにすることであった。帝王切開のための切開(皮膚を切ること)を行う前の皮膚処置に使用した消毒薬の有効性を評価したすべての研究を収集し、分析した。帝王切開前に腹部の手術部位を準備するために使用された処置の分析のみを含み、手術チームの手洗いや母体の入浴については含めていない。
重要である理由
手術切開部の感染は、院内感染の中で3番目に多く報告されている。帝王切開で出産する女性は、母体自身の皮膚に元々存在する細菌や外部からの感染にさらされている。帝王切開後の感染リスクは、経腟分娩の10倍にもなる。そのため、帝王切開を行う前に皮膚を適切に処置し感染を防ぐことは、帝王切開前の女性に提供される総合的なケアの重要な部分である。消毒薬とは、増殖したときに母体や赤ちゃんに害を及ぼす可能性のある細菌を除去するために適用される物質である。消毒薬としては、ヨードまたはポビドンヨード、アルコール、クロルヘキシジン、パラクロルメタキシレノールなどがある。消毒薬は、液体や粉末、スクラブ、塗料、綿棒、または皮膚に貼付する「ドレープ(訳注:患者を覆う布)」に含浸するなどして適用することができ、外科医は、その後、手術を開始する。手術開始後に皮膚に残ってしまう細菌の拡散を減らす目的で、皮膚をこすり洗いしたり、消毒薬を塗布した後に、消毒薬を含浸していないドレープをかけることもできる。これらの消毒薬や方法に、他のものよりも効果があるものがあるかどうかを知ることが大切である。
得られたエビデンス
このアップデートされたレビューには、6938人の女性を対象とした13の試験が含まれている。6つの試験が米国で行われ、残りの試験はナイジェリア、南アフリカ、フランス、デンマーク、インドネシア、インド、エジプトで行われた。このレビューでは、以下を重要なアウトカムとして、女性と赤ちゃんにとって何が最善であるかを調べた:帝王切開を行うために切開した部位の感染、子宮内膜の炎症(子宮筋層炎や子宮内膜炎)、女性の入院期間、女性の皮膚の炎症などのその他の副作用、または赤ちゃんへの影響の報告など。13の試験のすべてがこれらのアウトカムのすべてを調査したわけではなく、各アウトカムのエビデンスはほとんど、6938人の女性よりもはるかに少ない数の結果に基づいていた。
私たちが発見したエビデンスの多くは、研究が実施された方法に限界があるため、比較的質が低いものだった。つまり、ほとんどの知見について確信が持てなかったということである。グルコン酸クロルヘキシジン剤を使用して皮膚消毒した場合、ポビドンヨードを使用して皮膚を消毒した場合と比較して、手術部位の感染症の発生率がおそらくわずかに減少しているというエビデンスが示唆された。その他の結果については、子宮内膜炎、皮膚刺激性、母体のアレルギー性皮膚反応などの点で、各種消毒薬と塗布方法の間にはほとんど差がないか、あるいは全く差がなかった。1件の研究では、グルコン酸クロルヘキシジン配合の皮膚消毒を受けた場合、ポビドンヨード配合の皮膚消毒を受けた場合と比較して、帝王切開後 18 時間後の皮膚上の細菌増殖の減少がみられたが、これが実際に女性の感染症を減少させるかどうかを確認するためには、より多くのデータが必要とされる。
結果が意味すること
帝王切開後の手術部位の感染を防ぐためには、どのような皮膚処置がよいのか、これまでに実施された試験から得られたエビデンスでは分からなかった。さらなる質の高い研究が必要である。現在も進行中の研究が2件あった。今後の更新では、これらの研究結果を本レビューに取り入れていく予定である。
《実施組織》増澤祐子、内藤未帆 翻訳 [2020.07.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007462.pub5》