低・中所得国における精神障害や悩みを抱える人々のケアのためのプライマリーレベルのワーカーによる介入

このコクラン・レビューの更新は、プライマリ-ケア・ワーカーや教師といった地域で働く人々が、精神障害や苦痛を抱える人々を支援することの効果を評価することを目的としている。今回のレビューでは、低・中所得国の研究に焦点を当て、95件の研究を対象とした(前回のレビューの23件を含む)。

要点

プライマリーヘルスの専門家、レイヘルスワーカー(専門職ではない保健医療に関わる人)、教師、その他のコミュニティワーカーは、訓練を受けていれば、メンタルヘルスの問題を抱える人々を支援することができるかもしれない。しかし、さらなるエビデンスが必要である。

本レビューで検討された内容

低・中所得国では、精神疾患を持つ多くの人々が、偏見やサービスへのアクセスの困難さのために、必要なケアを受けられないでいる。一つの解決策は、「プライマリーレベルのワーカー」を通じてサービスを提供することである。「プライマリーレベルのワーカー」とは、メンタルヘルスの専門家ではないが、何らかのメンタルヘルスのトレーニングを受けている人たちで、プライマリーヘルスの専門家(医師、看護師など)、レイヘルスワーカー(専門職ではない保健医療従事者)、コミュニティボランティア、その他のコミュニティメンバー(教師、ソーシャルワーカーなど)が含まれる。プライマリーレベルのワーカーは、これらのサービスを単独で、または専門家と協力して提供する。

レビューの主な結果

30の低・中所得国における、95の関連試験が見つかった。

これらの介入戦略が、メンタルヘルスの問題を抱える人の数、回復した人の数、症状の重さ、生活の質(QOL)、日常生活の機能、医療サービスの利用、治療による悪影響などに及ぼす影響についてエビデンスを探した。すべての結果は、治療終了後1~6ヵ月後に測定された。ただし、治療終了直後に測定されたグループ5を除く。結果が示されていない場合は、エビデンスがないか、またはエビデンスが非常に不確であったためである。以下に示す結果のエビデンスの確実性は、低~中程度であった。

1. うつ病および不安障害を抱える成人

レイヘルスワーカーによる治療は、通常の治療と比較して:

a. 回復力を高める可能性がある;

b. うつ病や不安障害を有する人の数を減らすかもしれない;

c. 生活の質(quality of life :QOL)を改善するかもしれない:

d. 日常生活の機能をわずかに改善する可能性がある:

e. 自殺念慮や自殺企図のリスクを減らす可能性がある。

メンタルヘルスの専門家と連携したプライマリーレベルのワーカーによる治療は、通常のケアと比較して:

a. 回復力を高める可能性がある;

b. うつ病や不安障害を有する人の数を減らす可能性があるが、実際の効果の範囲では、ほとんど、あるいは全く効果がないかもしれない;

c. 症状をわずかに軽減する可能性がある;

d. 生活の質をわずかに改善する可能性がある;

e. 日常生活機能には、おそらくほとんど影響を及ぼさない;

f. メンタルヘルスの専門家への紹介が減る可能性がある。

2. 妊娠・出産に関連したうつの女性

レイヘルスワーカーによる治療は、通常の治療と比較して:

a. 回復力を高める可能性がある;

b. おそらく、うつ症状をわずかに軽減できる。

c. 日常生活機能をわずかに向上させる可能性がある;

d. 死亡リスクにはほとんど、あるいは全く影響しないかもしれない。

3. 心的外傷後ストレスや抑うつ・不安を抱える人道的環境下にある成人

レイヘルスワーカーによる治療は、通常の治療と比較して:

a. うつ症状をわずかに軽減する可能性がある;

b. おそらく、生活の質がわずかに向上する。

プライマリーヘルス専門家による治療は、通常のケアと比較して:

a. 心的外傷後ストレスやうつ病を抱える成人の数を減らす可能性がある。

4. アルコールや物質使用の問題を抱える成人

レイヘルスワーカーによる治療は、通常の治療と比較して:

a. 有害/危険なアルコール使用からの回復を高める可能性があるが、実際の効果の範囲では、ほとんど、あるいは全く効果がないと考えられる;

b. 有害/危険なアルコール使用のリスクを、わずかに減少させるだろう;

c. 日常生活機能には、ほとんど影響を及ぼさないかもしれない;

d. 覚醒剤を使用する人の数には、ほとんど影響しないかもしれない。

プライマリーヘルスや地域の専門家による治療は、通常のケアと比較して:

a. 有害/危険なアルコール使用からの回復には、おそらくほとんど影響しない;

b. 有害/危険なアルコールや物質の使用のリスクを、おそらくわずかに減少させる;そして

c. 生活の質にはほとんど影響しないだろう。

5.重度の精神障害(統合失調症など)を持つ成人

レイヘルスワーカーによる治療は、メンタルヘルスの専門家だけの治療と比較して:

a. 介護者の負担を軽減する効果はほとんどないかもしれない。

プライマリーヘルスの専門家が単独で、またはメンタルヘルスの専門家と協力して行う治療は:

a. 日常生活の機能を向上させる可能性がある。

6.認知症の成人とその介護者

レイヘルスワーカーと専門家による治療は、通常ケアと比較して:

a. 認知症患者の行動障害の重症度には、ほとんど影響を及ぼさない可能性がある;

b. 介護者の精神的苦痛を軽減する可能性がある。

7.心的外傷後ストレスや抑うつ・不安を抱える人道的環境下の子どもたち

レイヘルスワーカーによる治療は、通常の治療または治療を受けない場合と比較して:

a. 心的外傷後ストレス症状にはほとんど影響しないかもしれない;

b. うつ症状や日常生活機能には、おそらくほとんど影響しない;

c. 有害事象のリスクは、ほとんど、あるいは全く差がないかもしれない。

地域の専門家(教師やソーシャルワーカー)による治療は、治療を受けない場合と比較して:

a. 抑うつ症状には、ほとんど影響を与えない可能性がある;

b. 有害事象は、ほとんど、あるいは全く違いがないかもしれない。

このレビューの更新状況

このレビューは当初2013年11月に発表され、今回のアップデートでは2019年6月20日までに発表された研究が含まれている。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、瀬戸屋希 翻訳[2021.08.28]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009149.pub3》

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