HIV陰性またはHIVに感染しているかどうか不明な成人において、症状聴取や胸部X線検査は肺結核のスクリーニング検査としてどの程度正確か?

肺結核検診の改善が重要な理由

結核がよく見られる環境における組織的スクリーニング検査は、結核を早期発見するために推奨される戦略である。スクリーニング検査で結核の可能性が高い人を特定し、確定検査を受けられるようにする。確定検査では、結核の原因菌である 結核菌 の存在を確認するための追加の検査を行う。一般的なスクリーニング検査として、結核の症状(咳、痰に血が混じる、発熱、倦怠感など)の有無を聞く問診、肺の異常を確認する胸部X線検査(CXR)が行われている。結核は抗生物質で治療が可能な疾患であるため、早期発見によって死亡率や罹患率が低下し、結核の伝染が減少し、より公平な治療を提供することができる。

肺結核にもかかわらず検査で見逃された場合(偽陰性)、治療が遅れ、さらに感染が広がる可能性がある。逆に、スクリーニング検査で陽性と出たが実際は陽性でない場合(偽陽性)、不必要な確定検査を行うことになり、本人と公衆衛生システムの両方に負担をかけることになる。

スクリーニング検査で偽陽性や偽陰性の結果が出る頻度(これを精度と呼ぶ)を知ることは、スクリーニング方法を選択する際に役立つかもしれない。

本レビューの目的

HIV感染の有無が不明またはHIVに感染していない成人における肺結核のスクリーニング検査として、症状に関する問診や胸部X線検査がどの程度正確なものかを調べること。

本レビューで検討された内容

(i)2週間以上の咳、(ii)咳(持続期間は問わない)、(iii)結核で起こるすべての症状、という3つの症状に関する問診の正確性を調査した。胸部X線検査については、(i)検査で見つかったあらゆる肺の異常、(ii)検査で見つかった結核を示唆する肺の異常、の2つの定義を陽性として検討した。胸部X線検査の結果は、放射線学の訓練を受けたスタッフが読影した。

主な結果

本レビューには59件の研究が含まれ、そのうち48件が1つ以上の症状に関するスクリーニング検査について報告し、37件が胸部X線検査について報告していた。

以下の結果は、スクリーニング検査の対象者1,000人中5人(0.5%)が肺結核に罹患している環境での状況を示す。

2週間以上の咳:1,000人がスクリーニング検査を受けた場合、58人が陽性となる。そして、2週間以上の咳を報告した人のうち56人(97%)は肺結核ではない。1,000人のうち、942人が陰性となる。そして、2週間以上咳を報告しなかった人のうち3人(0.3%)が肺結核である。

咳(持続期間は問わない):1,000人中127人が陽性と判定される。そのうち124人(98%)は肺結核ではない。1,000人のうち873人が陰性となる。そのうち2人(0.2%)が肺結核である。

あらゆる結核症状:1,000人のうち351人がスクリーニング陽性となる。そのうち348人(99%)は肺結核ではない。1,000人のうち649人が陰性となる。そのうち1人(0.2%)が肺結核である。

胸部X線検査で見つかったあらゆる肺の異常:1,000人中113人が胸部X線検査で肺の異常が見つかる。そのうち108人(96%)は肺結核ではない。1,000人のうち887人は肺に異常が見られない。そのうち肺結核に罹患している人は1人もいない(0%)。

胸部X線検査で見つかった結核を示唆する肺の異常:1,000人のうち48人が陽性となる。そのうち44人(92%)は肺結核ではない。1000人中952人が陰性となる。そのうち1人(0.1%)が肺結核である。

本レビューの信頼性

対象となった研究では、結核かどうかは、参加者に対して確定検査(参照基準)を行うことで診断された。これは、参加者が本当に肺結核であったかどうかを判断するために利用できる最善の方法である。

しかしながら、研究の進め方には問題があった。多くの研究では、症状や胸部X線検査で異常がなかった人は確定検査を受けていない。したがって、症状や胸部X線検査の異常がないにもかかわらず結核に罹患している人(偽陰性)の数は、これらの研究では過小評価されている可能性がある。その結果、症状の問診や胸部X線検査によるスクリーニング検査は、実際よりも正確に見えるかもしれない。

加えて、レビューに含まれた個々の研究の結果は、地域差などによりさまざまであった。したがって、症状の有無と胸部X線検査の異常によるスクリーニング検査が常に同じ精度を持つとは断言できない。

本レビューが示唆すること

本レビューの結果は、症状に関する問診や胸部X線検査による結核のスクリーニングは、結核患者を高確率で発見する可能性があることを示唆している。しかしながら、このようなスクリーニング検査では、結核にかかっていない人が陽性となる割合が高くなる可能性もある。最適なスクリーニング検査プログラムを構築するには、地域の疫学的状況、胸部X線検査の普及度合いや利用しやすさ、確定検査の必要性などを考慮する必要がある。

本レビューの更新状況

1992年1月1日から2018年12月10日までに発表された研究を検索し、本レビューの対象とした。2021年7月2日まで検索を繰り返したが、分析結果に新たな情報を与えうる研究は見つからなかった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2023.11.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010890.pub2》

Tools
Information