まだ生まれておらず母親の子宮内にいる胎児に対して、外科手術や侵襲的な処置が安全に行えるように、胎動を防止する(胎児を動けなくする)ための麻酔と鎮痛の薬剤の有効性に関するランダム化比較試験によるエビデンスを求めた。
レビューの論点
妊娠中の超音波検査が非常に進歩したことで、まだ生まれていない赤ちゃんの発育に問題がないかを診断することができるようになった。胎児の器質的問題や多胎妊娠による合併症の多くが、赤ちゃんがまだ母親の子宮の中にいる間に治療できる。気道の閉塞など、一般的に生まれる前に治療を必要とする問題は多い。子宮内治療を行うために胎児を動けなくする薬の有効性と、鎮静・鎮痛中の母体に対する影響を調べた。これらの子宮内治療における処置を安全に行うために、胎児の動きを抑える必要があるだろう。この麻酔は、母体に薬を投与する方法(多くは静脈に注射する)と胎児に直接投与する方法(胎児の筋肉に注射する)のいずれかで行われる。
重要性
肺や心臓の器質的問題を治療することで、妊娠予後や新生児予後を大きく改善することができる。双子で一つの胎盤を不均等に分け合う双胎間輸血症候群のような、多胎妊娠の合併症についても同様である。胎動を減らして手術に最高の環境を用意することは、治療を安全に行うこと、早産などの合併症を減らすことにつながる。また、母体に対しても過度の鎮静や鎮痛の不足といった副作用がなく、安全な環境を提供することが重要である。
得られたエビデンス
2021年5月までのランダム化比較試験について、54例の妊婦を対象とした1件の適格な試験を検索した。すべての対象者がヨーロッパの病院で専門的な治療を受けた、妊娠第2三半期の多胎妊娠女性であった。胎児鏡手術の間、胎児を動かなくし母体を鎮静するためにレミフェンタニルまたはジアゼパムの静脈注射を行った。これは、小さな装置(腹腔鏡)を母体の腹壁から子宮内に挿入し、胎児と胎盤を観察するものである。この試験からは確実性の低いエビデンスが得られた。主要な評価項目は赤ちゃんがどれくらい動いたか、体や四肢の動きについて評価するものであった。母体の評価項目は鎮静の程度と呼吸抑制であった。手術時間や手術環境についての満足度も評価された。確実性の低いエビデンスでは、レミフェンタニルは胎児の動きを抑制することについてジアゼパムより優れている可能性があり、術者はレミフェンタニル使用により満足していた。 一方、母体の鎮静度や呼吸抑制についてはレミフェンタニルのほうが悪かった。
結果が意味すること
1件の小規模な試験から得られた確実性の低いエビデンスは、結果が確実とはいえないことを意味する。母体、胎児、新生児の予後についての情報は限られていた。子宮内治療のために胎児を動かなくする薬物や、他の適していると考えられる薬物の、長期的な胎児や新生児への影響の確実性を高めるためには、より質の高い試験が必要である。
《実施組織》内藤 未帆、小林 絵里子 翻訳[2022.05.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011068.pub2》