レビューの論点
鎌状赤血球症(SCD)患者の無症候性脳卒中(無症候性脳梗塞としても知られる)を予防する安全で効果的な介入療法があるかどうかを評価する。
背景
SCDは重篤な遺伝性血液疾患で、体中に酸素を運ぶ赤血球が異常に発達する疾患である。正常な赤血球は柔軟性があり円盤状だが、鎌状赤血球症では硬く三日月状になりやすい。鎌状赤血球は健康な赤血球に比べて柔軟性が低いだけでなく粘性もある。そのため血管の閉塞を引き起こしやすく、組織や臓器の損傷、激痛に繋がることがある。異常な血球はもろくバラバラになるため、赤血球数が少なくなる貧血の状態になる。鎌状赤血球は脳血管の血流を阻害することがあり、それが無症候性脳卒中につながる。
無症候性脳卒中はよく見られるもので、18歳までにSCDを発症した人では39%にも上る割合で発生している。初回脳卒中を起こすリスクが高い子どもを特定するために2種類の検査が用いられている。経頭蓋ドップラー超音波検査(TCD)は、脳内の動脈を流れる血液の速度を測定する。血流が速い小児の場合、脳卒中のリスクが高くなる。一方、磁気共鳴イメージング(MRI)では、サイレントストロークと呼ばれる小さな損傷領域があるかを確認するために脳の画像を取る。サイレントストロークを有する場合は臨床的な脳卒中のリスクが高まる。
無症候性脳卒中を防ぐために検討されてきた治療法には、長期の赤血球輸血、薬剤としてのヒドロキシ尿素、幹細胞移植などがある。
調査期間
このエビデンスは、2019年11月14日現在のものである。
研究の特徴
5件の無作為化比較試験を見出し、登録された参加者は計660人であった。3件の試験が輸血ありと輸血なしを比較し、2件の試験が輸血療法とヒドロキシ尿素療法を比較していた。これらの試験は1998年から2016年の間に発表されたもので、小児と場合によっては青年が含まれていた。大多数が鎌状赤血球症の単一の遺伝子型であった(HbSS)。幹細胞移植が含まれる試験はなかった。
全ての試験が政府の資金提供を受けていた。
主な結果
赤血球輸血は、TCD速度が異常な小児では無症候性脳卒中のリスクを低下させる可能性があったが、TCD速度が正常な小児ではほとんど効果がないか全くなかった。
赤血球輸血は、脳卒中のリスクが高い小児(TCD速度の異常または無症候性脳卒中の既往あり)で、臨床的な脳卒中のリスクをおそらく減少させる;急性胸部症候群および疼痛発作のリスクを減少させる可能性がある。しかしながら、死亡のリスクに影響を及ぼすかは非常に不確かである。
赤血球輸血は、TCD速度が正常で脳卒中の既往がない小児において、QOL(生活の質)を改善する可能性があるが、IQ(知能指数)にはほとんど影響しないか全く影響しない。
脳卒中予防のために赤血球輸血を少なくとも12か月間定期的に行っていた小児・青年では、赤血球輸血を継続することで無症候性脳卒中のリスクが低下する可能性があるが、死亡リスクや臨床的な脳卒中のリスクに影響を及ぼすかは非常に不確かである。
鉄キレート(過剰な鉄を除去する治療)と赤血球輸血を長期に受けており脳卒中を経験していない小児に対して、瀉血(過剰な鉄を除去するために血液を抜くこと)を伴うヒドロキシ尿素への切り替えが、無症候性脳卒中、臨床的な脳卒中、死亡、SCD関連合併症のリスクに影響を与えるかどうかは非常に不確かである。
長期の赤血球輸血と鉄キレート療法を受けており臨床的な脳卒中の既往がある小児・青年で、ヒドロキシ尿素剤と瀉血に切り替えることが無症候性脳卒中や死亡のリスクに影響を与えるかは、非常に不明確かである。ハイドロキシ尿素と瀉血に切り替えることで、SCD関連の合併症のリスクが高まる可能性がある。
エビデンスの質
長期輸血を受けたことがなく脳卒中リスクの高い小児では、長期の赤血球輸血が脳卒中リスクを低下させるという中等度の質の高さのエビデンスがある。無症候性脳梗塞を含むその他のアウトカムについては、バイアスリスクの高さ、試験数の少なさや試験への参加者数の少なさから、エビデンスの質は低いから非常に低いと評価された。
《実施組織》加藤仁美 翻訳、冨成麻帆 監訳[2020.07.13] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012389.pub3》