妊娠糖尿病の母子のアウトカム改善に向けた追加治療としてのプロバイオティクス

論点

妊娠糖尿病(GDM)は高血糖値をもたらす炭水化物不耐症で、妊娠中に初めて認識されるものである。GDMの妊婦には、高血圧、陣痛促進、帝王切開のリスクがある。赤ちゃんには、巨大児、難産、呼吸困難、出生時の低血糖、そして脳障害につながり得る黄疸といったリスクがある。母体では長期に糖尿病を患うリスクが、赤ちゃんでは過体重になるリスクが高まる。プロバイオティクスとは食品中に自然に存在する微生物のことで、発酵乳やヨーグルト、カプセルなどに含まれている。多くの種類のプロバイオティクスがあるが、最も利用されているのは乳酸菌ビフィズス菌の2つであり、適切な量を摂取すれば健康上の利益が得られる可能性がある。

重要と考える理由

プロバイオティクスは安全である必要があり、妊娠中は母体の血糖値を慎重に管理する必要がある。

GDMの妊婦はまず、血糖値のモニタリングと食事および身体活動に関する教育による管理を受ける。血糖値が一定の閾値を超えると、インスリンなどの血糖降下薬が処方される。このレビューは、GDMの妊婦の治療におけるプロバイオティクスの安全性と有効性を評価することを目的とした。

得られたエビデンス

ランダム化比較試験を検索した(2019年7月最新)。9件の研究を見出し、参加したGDMの妊婦は695名であった。すべての試験でプロバイオティクスとプラセボが比較されていた。エビデンスの確実性は低い、または非常に低いと評価された。全体的なバイアスリスクは低度~不明確であった。

イランで7件、タイで1件、アイルランドで1件の試験が行われた。試験は病院や大学で行われた。

プロバイオティクスとプラセボとで以下の発生率に差があるかは不明であった。高血圧障害(3件の研究、参加者256名、エビデンス低度)、帝王切開(3件の研究、参加者267名、エビデンス低度)、在胎不当過大児(訳者注:在胎期間に対して体重が90パーセンタイル以上の新生児をさす)(2件の研究、参加者174名、エビデンス低度)。

陣痛誘発(1件の研究、参加者127名、エビデンス非常に低度)や新生児の低血糖(3件の研究、参加者177名、エビデンス低度)についてもプロバイオティクスとプラセボとで差があるかは不明である。また、出産直後の大量出血、出産時の体重や妊娠中の体重増加量についても、プロバイオティクスとプラセボとで差があるかは不明である。

空腹時血糖についてもプロバイオティクスとプラセボとで差があるかは不明である(7件の研究、554名)。プロバイオティクスは中性脂肪と総コレステロール値のわずかな減少に関与し得る(4件の研究、320名)。プロバイオティクスによってインスリン分泌の低下が認められた(7件の研究、505名)。ある研究(参加者60名)ではインスリン治療の必要性についてグループ間で差が認められなかった。

バイオマーカーでは、インスリン抵抗性(HOMA-IR)(7試験、505名)とインスリン抵抗性・β細胞機能(HOMA-B)(2試験、130名)についてプロバイオティクスによる低下が認められた。定量的インスリン感受性検査指数(QUICKI)についてはプロバイオティクスにより上昇が認められた(4試験、276名)。

炎症マーカーである高感度CRP(4試験、248名)とインターロイキン-6(2試験、128名)は、プロバイオティクスにより低下した。プロバイオティクスにより、抗酸化作用のある総グルタチオン値は増加し(2試験、120名)、酸化ストレスのバイオマーカーであるマロンジアルデヒドは減少した(3試験、176名)。総抗酸化能に差があるかは不明である(4試験、266名)。

新生児では、以下についてプロバイオティクスとプラセボの間に差があるかは不明である:出生体重、出生時の妊娠週数、早産、巨大児、頭囲と頭長、新生児集中治療室に入室する必要性。高ビリルビン値を有する赤ちゃんの数はプロバイオティクスにより減少した。

これらの試験で有害事象は報告されなかった。

結果の意味

入手できる臨床試験結果に基づくと、GDM妊婦とその赤ちゃんの妊娠アウトカム改善を目指した治療にプロバイオティクスを使用することを支持するエビデンスは限定的であった。グルコース値の管理におけるプロバイオティクスの効果を評価するためには、より大規模でよく計画されたランダム化比較試験が必要である。エビデンスが得られたら、本レビューに含められるだろう。

訳注: 

《実施組織》加藤仁美 翻訳、杉山伸子 監訳[2020.7.13] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。  《CD012970.pub2》

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