要点
- 品質向上プログラムは、特に複数の戦略を組み合わせた場合に、糖尿病治療を改善することができた。
- これらのプログラムで使用され、糖尿病患者の主な治療結果を最も大きく改善した戦略は、ケースマネジメント、チームの変更、患者教育、および自己管理の促進であった。
なぜ、糖尿病治療の向上が重要なのか?
糖尿病とは、体内における糖代謝の障害であり、心疾患や失明などの合併症を引き起こす可能性がある。患者が最善の治療を受けることができれば、これらやその他の合併症のリスクは低くなる。残念ながら、患者の多くは最善の治療を受けていない。
品質向上戦略とは何か?
さまざまな戦略を用いた品質向上プログラムは、医療従事者の治療の向上に有用である。本レビューでは、一般的な12種類の品質向上戦略について検討を行った。
- 医療従事者に対しては、監査とフィードバック、教育、注意喚起、および金銭的な報酬の4種類の戦略が用いられた。
- 糖尿病がある人に対して以下の3種類の戦略が用いられた:教育、注意喚起、および自己管理の促進。
- 医療機関に対しては、ケースマネジメント、チームの変更、電子的患者レジストリ、臨床情報の円滑な伝達、継続的な質の向上の5種類の戦略が用いられた。
何を調べようとしたのか?
以下の項目の改善に最も効果的な戦略を明らかにしたいと考えた:
- 血糖値のコントロール(糖化ヘモグロビンまたはHbA1cと呼ばれる検査項目で測定される)
- 血圧
- 低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)
これらの検査の値が低いほど、心筋梗塞などの合併症の発生率が低くなると言われている。
また、品質向上戦略によって、目の障害(網膜症として知られる)および足の感覚の喪失(神経障害として知られる)のスクリーニング率が改善するかどうかについても評価を行った。糖尿病患者におけるこれらの疾患の定期的なスクリーニングは、それぞれ失明あるいは足の切断への進行の防止のために推奨されている。
何を行ったのか?
外来で管理されている成人糖尿病患者を対象とし、少なくとも1つの品質向上戦略を評価したランダム化比較試験を検索した。糖尿病患者を対象とした戦略について関心があったものの、患者を対象とした戦略は、医療機関や専門家を対象とした戦略と組み合わせて検証する必要があった。研究結果を要約し、研究の方法、研究規模、およびその他の要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。
何を見つけたのか?
2019年までに行われた合計412,161人の糖尿病患者を対象とした553件の研究が見つかった。研究は世界各国で行われており、多くは米国(231件)で行われ、また、医療現場で実施されていた。
ほとんどの研究(367件)は、2型糖尿病患者を対象としており、半数は女性で、全体の平均年齢は57歳であった。研究期間の多くは12か月間であった。
研究では通常、複数の品質向上戦略を併用しており、最も一般的な研究は、3種類の品質向上戦略を用いていた。
主な結果
全体として、ケースマネジメント、チームの変更、患者教育、自己管理の促進が、糖尿病診療の最も効果的な品質向上戦略であると思われた。
3種類の戦略を組み合わせた(多成分介入における品質向上戦略の中央値をとった)場合、臨床医の教育、自己管理の促進、および患者への注意喚起の組み合わせは、HbA1cが低い状態から開始した人の血糖値のコントロールを最も改善する可能性がある。一方、ケースマネジメント、患者教育、および電子的患者レジストリの組み合わせは、HbA1cが高い状態で開始した人の血糖値のコントロールを最も改善する可能性がある。
血圧の場合、収縮期血圧が低い人は、患者教育、チームの変更、および自己管理の促進の組み合わせで最も改善される可能性がある。収縮期血圧が高い人は、ケースマネジメント、チームの変更、および自己管理の促進の組み合わせで最も改善される可能性がある。
コレステロールの場合、低比重リポ蛋白(LDL)の値がすでに低い人には、チームの変更、患者教育、およびケースマネジメントの組み合わせが最も改善につながる可能性がある。LDLの値が高い人については、チームの変更、ケースマネジメント、および臨床医による注意喚起の組み合わせが最も改善につながる可能性がある。
患者教育、患者への注意喚起、およびチームの変更を行うことで、網膜症のスクリーニング率の向上につながる可能性がある。患者教育、チームの変更、監査とフィードバック、金銭的な報酬、および継続的な品質向上の戦略を組み合わせることで、足の神経障害に対するスクリーニング率が向上する可能性がある。
これは何を意味するのか?
クリニックは、品質向上プログラム(特にケースマネジメント、チームの変更、患者教育、患者の自己管理を含む)に取り組むことで、糖尿病の治療を改善することができる。
エビデンスの限界は何か?
多くの研究では、関心があった項目すべてについての情報は提供されていなかった。ほとんどは血糖値のコントロールに焦点が当てられており、スクリーニング率が報告された研究はほとんどなかった。本レビューには、実施方法に重要な欠陥がある研究も含まれていたため、調査結果に対する信頼性には限界があった。
本エビデンスはいつのものか?
本レビューのエビデンスは2019年6月時点におけるものであり、さらに2021年9月までの研究を検索し、スクリーニングを行った。現在、リビングシステマティックレビューに取り組んでおり、少なくとも年に1回、新たなエビデンスを更新している。
《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2023.11.24]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD014513》