背景
毎年、世界で数百万人もの人々が動脈閉塞性疾患にかかり、切断手術を余儀なくされている。切断手術では大量の血液が失われ、死亡を含む合併症を引き起こす可能性がある。輸血にはリスクが伴うが、切断する脚の上部を圧迫する器具である止血帯の使用は、出血量を減らし、輸血の必要性を減らすことができる。これは膝関節に対し人工関節置換術を行う際には安全であると考えられているが、手術を受ける血管に閉塞性疾患がある場合への使用については、依然として議論の余地がある。また、止血帯により患者の皮膚、筋肉、および血管が損傷を受け、切断部への血液供給が減少することで、創傷治癒に影響を与える可能性についての懸念がある。
本レビューでは、血管の閉塞性疾患により切断手術が行われる場合の止血帯の使用が、手術中の失血量、血球数の低下、輸血の必要性や、創傷の治癒、再手術の必要性などの合併症の低減に安全かつ効果的であるかどうかを調査した研究について検索を行った。
研究の特徴および主な結果
血管の閉塞が原因で切断術を受ける患者において、止血帯を使用した場合と止血帯を使用しなかった場合とを比較した研究を探すため、医学データベースを検索した。その結果、英国で実施されたランダム化比較試験(患者を2種類以上のいずれかの治療群に無作為に割り付ける種類の研究)が1件確認された。重度の動脈閉塞が原因で下腿切断術を受ける64人の参加者が、止血帯を使用する群と使用しない群に割り付けられた。この研究では、手術中の出血量、血球数の変化、輸血の必要性、創傷治癒、再手術が評価された。その結果、下腿切断術の際に止血帯を使用すると、手術中の出血量が半減し、血球数の低下と輸血の必要性が減少することが示唆された。しかし、創傷治癒、再手術の必要性、および死亡を含む他の手術後の合併症には影響がなかった。
エビデンスの確実性
バイアスのリスクが高い小規模な研究が1件のみしか見つからなかったため、切断術の際の止血帯の使用に関するエビデンスの信頼性は低い。
結論
動脈の閉塞により切断術を行う場合における止血帯の使用は、手術中の出血量を減らし、輸血の必要性も減少する可能性がある。しかし、このエビデンスは1件の小規模な研究から得られたものであり、これらの患者に対する止血帯の使用を判断するためには、さらなる質の高い研究が必要である。
《実施組織》小泉悠 阪野正大 翻訳[2024.04.01]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015232.pub2》