レビューの論点
前立腺癌患者に対して前立腺を全摘出する手術は、治療を延期した場合と比較してどうか。
背景
前立腺癌は、特に高齢の男性に多いがんである。頻度は低いが、尿に血が混じったり、排尿障害などの症状を引き起こすことがある。リンパ節や骨など他の臓器に転移することもある。進行すると、前立腺癌を治すことができず、他の症状を引き起こし、最終的には死に至ることもある。
根治的前立腺全摘除術では、前立腺全体を切除する。これは、癌が前立腺に限局しており、ほかの部位に広がっていないようにみえる場合の治療法である。また、最初は癌の治療を受けず、後から合併症の治療を受けるという選択肢もあり、これを「待機療法」という。また、最初は治療を受けずに 癌の病勢が悪化するまで定期的な検査で様子をみてから治癒を目指した治療を受ける選択をする人もいる。これを監視療法という。
研究の特性
2020年3月3日までの医学文献を検索した。前立腺癌の男性2,635人を含むランダム化比較試験4件がみつかり、うち3件は根治的前立腺全摘除術と待機療法を比較した研究で、1件は根治的前立腺全摘除術と監視療法の初期に行われていた積極的モニタリングを比較した研究であった。
主な結果
根治的前立腺全摘除術と待機療法
29年間の追跡では、根治的前立腺全摘除術によって、あらゆる理由で死亡するリスク、前立腺癌で死亡するリスク、がんの病勢が悪化するリスク、がんが体の他の部位(リンパ節や骨など)に転移するリスクをおそらく減らすことができる。
全般的な生活の質(QOL)が高いと報告する患者の数は、12年間の追跡では両群でおそらく同等である。尿漏れや勃起障害のリスクは手術を受ける患者のほうがおそらく高い。
根治的前立腺全摘除術と積極的なモニタリング
10年後にあらゆる理由で死亡するリスクと、前立腺 癌で死亡するリスクについては、根治的前立腺全摘除術と積極的なモニタリングとの間には、おそらくほとんどあるいは全く差はない。根治的前立腺全摘除術は、がんの病勢が悪化するリスクと、がんが体の他の部位に転移するリスクをおそらく減少させる。
追跡期間中の全般的な生活の質(QOL)はおそらく同等である。2年後の追跡調査では、根治的前立腺全摘除術を受けた患者のほうが失禁と勃起不全になる可能性が高い。
エビデンスの確実性
エビデンスの確実性は、がんに対する治療成果についてはほとんどが中等度であった。これは、実臨床での結果が本レビューに記載されているものと同様である可能性が高いことを意味している。エビデンスの確実性が低かった治療成果については、実臨床での結果はかなり異なる可能性がある。
《実施組織》 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)串間貴絵 翻訳、榎本裕(三井記念病院泌尿器科)監訳 [2020.9.30] 《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD006590.pub3》