進行性卵巣がん女性患者における腫瘍を取り除く超根治(拡大)手術と標準手術との比較

レビューの論点

卵巣がんの治療において、超根治(拡大)手術と標準的な手術の利点と弊害は何か?

背景

卵巣は子宮の両側にある小さな臓器で、卵子をつくり、貯蔵し、月経(生理)を制御するホルモンを作っている。卵巣がんは、生殖器系のがんの中で、女性の死因として最も多いがんである。進行した卵巣がんの女性が、標準的な手術よりもはるかに広範囲に腫瘍を取り除く「超根治」手術を受けた方が予後が良いかどうかについては、意見が分かれている。進行したがんにおける標準的な手術は、根治的な要素を持ちながら、さらに根治的な手術のうちの最低限必要とされる多くの外科的処置で構成される。超根治(拡大)手術は、標準的な手術の延長線上にあり、少なくとも1つ以上の広範囲にわたる処置が追加される場合がある。

レビューの方法

進行した卵巣がんの女性に対する超根治手術と標準的な手術を比較した研究を科学文献で検索した。最も優れた研究手法とされるランダム化比較試験と、異なる種類の手術を受けた女性のグループ間の差異を許容する方法を用いて分析された非ランダム化試験を検索した。

主な結果

3件の非ランダム化研究を同定した。女性は無作為に割り付けられたのではなく、それぞれの治療を受けるように選ばれたので、この種の研究ではバイアスのリスクが非常に高く、すべての結果に関するエビデンスは非常に限られており不確実である。

2件の研究(397名)では、腫瘍を取り除く根治的な手術を受けた女性は、標準的な手術を受けた女性に比べて、死亡する確率が18~57%低い可能性があるとされた。この結果は、がんがより広範に広がっている女性でも同様であった。術後30日以内の死亡例はほとんどなかった。根治手術の方が病気が進行する可能性が低いかもしれない。

1件の研究では、化学療法を始める前に腫瘍を切除する手術を先行させる方法と化学療法の合間に手術で腫瘍を切除する方法の両方において、根治手術と標準手術が死亡に与える影響について比較していたが、比較は公正ではなく、結果の報告には高いバイアスのリスクが存在した。

別の1件の研究(対象者203人)では、一次腫瘍減量術(化学療法の前に手術を行って腫瘍を切除する)の一環として根治手術を受けた女性は、標準的な手術を受けた女性に比べて、病気の進行や死亡の可能性が8%から58%低いことが示唆された。この結果は、がんがより広範に広がっている139人の女性だけを対象に解析しても同様(18%から67%の低下)であった。

1件の研究の根治手術群を統合した解析(対象者527人)では、超根治手術(化学療法の前、および化学療法の合間に腫瘍減量手術を行う)を受けた女性は、標準手術を受けた女性に比べて、疾患の進行または死亡の確率が11%から60%増える可能性があることがわかった。

すべての研究は、バイアスのリスクが非常に高い(重大な)ものであり、エビデンスは極めて不確かである。設定した対象基準が厳密だったため、対象者となる女性の数が少なかった。死亡、副作用、生活の質(QOL)の報告がない、あるいは不十分な研究があった。

結論とエビデンスの確実性

これらの結果の一部は、化学療法の前に超根治手術を受けた女性の方が標準手術よりも生存率が良いことを示唆しているかもしれない。しかし、研究のデザインや解析が適切ではないため、解釈には細心の注意が必要である。すなわち、結果がくつがえる可能性さえある。

今回比較した2つの手術の相対的な利点と弊害について、明確な結論に達することはできない。より良いデザインによる、大規模な研究が必要である。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、内藤未帆 翻訳 [2022.12.16]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007697.pub3》

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