本レビューでは、ステージ1~3の非糖尿病性CKD患者におけるACEiまたはARBの有効性を特定するには現在はエビデンスが不十分であることが示された。大半の者がCKDであるとされている患者群では、著しい不確定範囲があることを確認している。
慢性腎臓病(CKD)とは、腎臓に対する障害の結果生じた長期的病態である。推定糸球体濾過量(eGFR)の検査報告、臨床的認知の増加、Kidney Disease Outcomes Quality Initiative(K/DOQI)分類の国際的採択により、CKDが早期に認識されるようになってきている。CKDに早期に気付き管理を行うことによって、進行性の腎障害および緊急の腎置換療法だけでなく、病勢悪化と心血管疾患リスクを低下するための介入を準備できるようになる。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(AGEi)およびアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に作用する降圧薬の2つの薬剤クラスである。様々な程度の腎障害患者において、腎アウトカムおよび生存に対するACEiおよびARBの有益な効果が報告されているが、早期CKD(ステージ1~3)患者サブグループにおける有効性についてはあまり明らかになっていない。
本レビューの目的は、非糖尿病の早期(ステージ1~3)CKD患者の管理における、ACEiおよびARB、またはその両者の利益と有害性を検討することである。
2010年3月に、Cochrane Renal Group's specialised register、The Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)などのコクラン・ライブラリ、MEDLINEおよびEMBASEを検索した。 レビュー論文と関連性のある研究の参考文献リストもチェックした。試験検索法では専門家からの意見を取り入れた、ランダム化比較試験(RCT)の同定目的にコクラン共同計画が策定した最適感度法を用いて検索を実施した。
早期(ステージ1~3)非糖尿病性CKD患者を対象にACEiおよびARBの効果を報告しているすべてのRCTを選択した。4週間以上の研究のみを選択した。2名のレビューアがチームとなり、抽出したタイトルと抄録を別々に評価し、必要な場合はこれらの研究の全文をスクリーニングしどの研究が選択基準を満たしているか決定した。
データ抽出は2名のレビューアが標準的抽出フォームを用いて別々に行い、2名の別のレビューアがクロスチェックした。選択した研究の方法的質はコクランのバイアスリスクツールを用いて評価した。データ入力は1名のレビューアが行い、別のレビューアがクロスチェックした。2件以上の研究が同様のアウトカムを報告していた場合、ランダム効果モデルを用いてデータを統合したが、選択したモデルの頑健性を保証し異常値に対する感度をチェックするため固定効果モデルも解析した。統計学的有意性に使用したアルファ値0.05、およびI2 検定を伴う自由度N-1のカイ二乗検定を用いて異質性を解析した。データが許せば、サブグループ解析を使用して異質性について可能性のある原因を探索した。エビデンスの質を解析した。
2,177例の参加者を対象とした4件のRCTが選択基準を満たした。これらのうち、3件はACEiをプラセボと比較し、1件はACEiをARBと比較していた。2件の研究は全体的に低バイアスリスクであり、他の2件のバイアスリスクは中等度から高度と考えられた。質が低~中等度のエビデンス(1,906例の患者を対象とした2件の研究による)では、ステージ3のCKD患者における総死亡(RR 1.80、95%CI 0.17~19.27、P = 0.63)および心血管系イベント(RR 0.87、95%CI 0.66~1.14、P = 0.31)に対しACEiによる影響はないと示唆された。総死亡では、結果にかなりの異質性を認めた。1件の研究(質評価:バイアス低リスク)では、ACEi投与を受けたeGFR > 45 mL/min/1.74 m2の患者において、プラセボに比べて末期腎疾患リスクに差はみられなかった(RR 1.00、95%CI 0.09~1.11、P = 0.99)と報告された。ACEiとARBを比較した研究(バイアス高リスク)では、尿蛋白、血圧またはクレアチニンクリアランスを比較した場合、両者でほとんど効果に差はなかったと報告された。ARBをプラセボと比較した発表研究、ACEiおよびARBをプラセボと比較した発表研究は同定されなかった。