心不全は、心臓が十分な心拍出量を維持できない、あるいは心室を過剰に満たすという犠牲を払ってのみ心拍出量を維持できる場合に発現する状態を説明する用語である。心不全患者は再発と寛解を繰り返す疾患経過をたどり、安定期と代償不全のエピソード(心損傷に対処できない状況)を伴い、入院を要する症状悪化に至る。
心不全の治療選択肢は、薬剤から心移植にまで及ぶが、それぞれに固有の限界がある。コエンザイムQ10(ユビキノン)は、いくつかの試験で治療選択肢として示唆されている。コエンザイムQ10は、処方箋不要の栄養剤である。身体の細胞内でのエネルギー産生に役割をもつ脂溶性分子である。抗酸化作用も有する。
コエンザイムQ10の体内濃度低下は心不全の重症度に関連している可能性がある。コエンザイムQ10は体内のすべての組織、臓器に存在し、心臓において濃度が最高である。心不全患者では、活性酸素(酸素を含み、他の分子と反応しやすい不安定な分子)の害が増加することが示唆されるデータが出てきた。コエンザイムQ10は、その抗酸化作用により、心筋細胞の構成要素を損傷し、細胞内のシグナル伝達を乱すこれらの毒性作用を抑えることができると考えられる。コエンザイムQ10は、心筋内の信号伝達やエネルギー生成に重要な役割を果たしており、コエンザイムQ10の濃度は心不全の重症度と逆相関している。コエンザイムQ10の補充により心不全を改善できる可能性がある。コエンザイムQ10は、許容できる安全性プロファイルをもち、重大な副作用がないと考えられているために使用されることもある。
心不全患者におけるコエンザイムQ10の効果に関する利用可能なエビデンスを評価するために、本レビューを実施した。1,573人が参加した11件のランダム化比較試験を組み入れた。これらは比較的小規模で、比較的短期間に参加者を追跡調査したものである。今回の解析では、コエンザイムQ10が全死亡および心不全による入院のリスクを低減する可能性が示された。心筋梗塞、脳卒中、他の有害事象のリスクはわずかに増加するか、またはほとんど差がないかもしれない。コエンザイムQ10の心機能改善や症状改善への効果は不明である。
2020年10月までの最新のエビデンスは、含まれている研究の一部でバイアスのリスクが高く、正確で一貫性のある結果が得られていないため、最高でも中程度の質となっている。コエンザイムQ10の心不全への使用を支持するあるいは否定する説得力のあるエビデンスはない。
《実施組織》 阪野正大、小林絵里子 翻訳 [2021.12.01]《注意》 本レビューはCD008684.pub22のアップデート版である。CD008684.pub2の翻訳は、厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9] が実施した。この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008684.pub3》