論点
流産は妊娠喪失の最もよくある原因であり、また妊娠初期に最もよくある合併症の一つである。妊娠の15%が流産に終わり、生涯で流産を経験する女性は25%にのぼると推定されている。流産は、とりわけ低所得国では、出血や感染などの重篤な合併症を引き起こし、死に至ることすらある。流産は一般的に、妊娠24週以前の自然な妊娠の喪失と定義される(訳注:本邦では22週未満)。流産の多くは初めの14週間に起こり、初期流産といわれる。
重要である理由
流産には待機的(妊娠組織が自然に出てくるのを待つ)、内科的(子宮が妊娠組織を排出するよう錠剤を投与する)(訳注:2021年6月現在、本邦では未承認)、外科的(手術によって妊娠組織を除去する)管理がある。流産の管理で取りうる方法には、有効性、安全性、副作用について不確実なところがある。このコクラン・レビューの目的は、どの方法が最も有効で、安全で、副作用が少ないかを調べることである。この疑問に答えるために関連があると考えられたあらゆる試験結果を収集した。
得られたエビデンス
2021年2月にエビデンスを検索し、17,795人 の女性を対象とした78件の研究を同定した。ほとんどの女性は病院で管理されていた。対象者は稽留流産(出血や痛みがなく、妊娠組織が排出されていない状態)または不全流産(出血や痛みが始まっており、一部の妊娠組織が排出されている場合もある状態)と診断されていた。流産の管理について、6種類の異なる方法のエビデンスを同定した:3種類の外科的方法(真空吸引法および頸管処置、頸管拡張および搔爬法、真空吸引法単独)、2種類の内科的方法(ミフェプリストンおよびミソプロストールまたはミソプロストール単独)、待機的管理またはプラセボ。
解析によると、3つの外科的処置および2つの内科的処置は、流産を完了させるにあたって待機的管理やプラセボよりも有効である可能性が示唆された。真空吸引法および頸管処置は流産管理に最も適した処置であり、頸管拡張および搔爬法と真空吸引法単独が続いた。ミフェプリストンとミソプロストールの併用、ミソプロストール単独がそれぞれ4、5番目に位置づけられた。
利用可能なデータからは死亡や重篤な合併症について多くを知ることはできなかった。この結果に寄与した研究からは、死亡例は報告されなかった。重篤な合併症の大半は輸血を必要とする状態で、中には手術に関連する子宮穿孔や救命処置を要する場合があった。このアウトカムについてどの方法が最適かは、データが限定的なためにわからなかった。しかしながら、待機的管理またはプラセボはその他の治療法と比較して重篤な合併症が多かった。
不全流産と稽留流産を区別した検討も行った。どちらのグループでも流産の最終的な治療について、待機的管理やプラセボと比べて3種類の外科的方法と2種類の内科的方法が有効であることがわかった。これらの不全流産および稽留流産の解析は、流産の最終的な治療を行うためには外科的方法が内科的方法よりも優れており、内科的方法が待機的管理やプラセボよりも優れているという点で、全体的な結果と一致していた。しかし、待機的管理とプラセボ以外の管理を受けた稽留流産の女性は、不全流産の女性に比べてはるかに大きい利益があった。これは、待機的管理やプラセボは、流産のプロセスがまだ始まっていない女性よりも既に始まっている女性に対しての方が、より効果的であるためと考えられる。
結論
流産管理においてどの方法も待機的管理やプラセボと比較して全体的に有効であったが、外科的治療は内科的治療よりも有効であった。待機的管理やプラセボは流産の治療に成功する可能性が最も低く、重篤な合併症や予定外手術、緊急手術が必要になる可能性が最も高かった。このレビューで、待機的管理やプラセボ以外の管理方法を受けた稽留流産の女性の利益は、不全流産の女性に比べてはるかに大きいことがわかった。
《実施組織》内藤未帆、杉山伸子 翻訳[2021.06.13]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012602.pub2》