無作為の薬物やアルコール検査が労働者の災害を防げるか?

背景

職場の事故や負傷は、薬物やアルコールによって身体活動や判断力が損なわれる時によりしばしば起きる。職場は通常研究が行われる場所ではない。雇用者が、安全な職場を確保する包括的な目標に対する職場薬物検査プログラムの影響を測定することは多くの要因があり困難である。

雇用者の中には、商用運転や航空業界のような特に安全が重要である分野では、労働者に対し無作為に薬物やアルコールの検査(無作為薬物・アルコール検査(RDAT))をすることを選択する者もいる。このような検査を行うことで、雇用者は被雇用者が不適切に薬物やアルコールを使用することを阻止したいと期待している。しかし、RDATが期待通りの効果をもたらすかどうかはわからない。

レビューの疑問

職場でのRDATが、RDATが行われない場合と比較して、損傷や物損事故(無傷事故)につながる不測事態を防ぐことができるのか知りたかった。

検索期間

本コクランレビューのエビデンスは、2020年11月1日現在のものである。

研究の特徴

本レビューには、職場におけるRDATに関連する研究をすべて盛り込みたいと考えた。RDATが職場安全にどのような影響を与えたかを測定した様々な研究結果を探した。既に公表されている他のコクラン・レビューがあるため、商用ドライバーのRDATに関する研究は除外した。

チームの2人が、検索で特定されたすべての文献を調べたが、私たちの選択基準を満たした研究は1つのみで、レビューに含めることができた。

この研究では、米国航空会社で安全関連業務を含む業務に従事している従業員を対象に、無作為アルコール検査を実施した。この研究では、従業員の薬物検査は行われなかった。航空会社は、無作為に選ばれた従業員のサンプルを検査して報告することを法律で義務付けられている。この研究では、1995年から2002年までの検査データを使用していた。航空会社の従業員を対象に、計511,745回の無作為アルコール検査が実施された。

主な結果

1995年から1997年までのアルコールの無作為検査では、毎年、関連する航空会社の従業員の25%が対象となっていた。この間、アルコール検査で陽性反応を示した従業員の平均は0.07%であった。1998年から2002年にかけては、毎年検査される従業員の割合は10%にまで低下していた。この間、アルコール検査で陽性反応を示した従業員の平均は0.11%に増加した。

つまり、航空会社が年間の無作為に検査する従業員の割合をより大きくすれば、アルコール陽性反応が出る割合がより小さくなっていた。1つの研究だけでは抑止効果があることを証明できないが、アルコール検査の頻度と陽性の割合との関係は、検査に抑止効果があるかどうか見るのに期待していたものである。

この研究では、他に興味ある分野の情報を明確に提供することはなかった。

- 致命傷

- 非致命傷(身体的に傷害を受けるが、死亡しない)

- 「非傷害事故」、すなわち、人は損傷を受けないが、財産、作業行程、材料、および/または環境が被害を受ける事故;

- 欠勤率、そして

- RDATに関連した望まない、或いは有害な事象、プライバシー、機密性、従業員の認識への影響も含む。

エビデンスの質

研究数、研究規模、研究方法などの要素に基づいて、チームのうち2人がエビデンスの信頼性を評価した。総合的にエビデンスの確実性は非常に低かった。このことは、職場での無作為アルコール検査のみ、または無作為アルコール検査と薬物検査の併用(RDAT)の有効性についてこの研究が一般化することは確実ではないことを意味している。研究者が答えを見つけるためにもっと研究する必要がある。

研究の資金源

本レビューに含まれた1件の研究は、一部は2つの助成金によって資金提供を受けていた:国立アルコール依存・中毒症研究所、そして米国疾病予防センターからの助成金であった。

訳注: 

《実施組織》 星 進悦、阪野正大 翻訳[2021.03.08]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012921.pub2》

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