論点
子宮内膜がん(子宮の内膜から発生するがん、子宮体がんともいう)になると、がん細胞が骨盤内リンパ節や傍大動脈リンパ節(上腹部にある太い動脈のそばにあるリンパ節)に転移している可能性があり、初回の子宮摘出手術後に化学療法を伴う、または伴わない、追加の放射線治療が必要になる場合がある。これまでの研究では、骨盤内のリンパ節をできるだけ多く切除すること(リンパ節切除)の効果を調べてきたが、生存率の向上は認められなかった。一方で、リンパ節を切除すると、リンパ浮腫(足のむくみ)やリンパ嚢胞(リンパ液の貯留)が問題になることが多い。センチネルリンパ節生検(SLNB)では、色素や放射性同位元素、またはその両方を用いて、腫瘍から最初に流れ込むセンチネルリンパ節を特定する。センチネルリンパ節を切除し、顕微鏡を用いてがん細胞があるかどうかを調べる。そこで得られた所見に応じて、追加の治療方針が決められる。
このレビューの重要性
子宮がんのセンチネルリンパ節を識別するために、色素や追跡可能な薬剤を使用した研究がいくつかあった。これらの薬剤のすべてがリンパ節にがんが転移しているかどうかを予測するのに十分な精度を持っているかどうか、また、子宮頸部と子宮筋のどちらに色素を注入するのがよいかは明らかになっていない。このレビューでは、エビデンスを要約し、利用可能な検査の相対的な精度の全体的な推定値を作成した。
レビューを行った方法
すべての骨盤内リンパ節と傍大動脈リンパ節、または骨盤内リンパ節のみを切除する標準的な方法と比較して、センチネルリンパ節を特定するための追跡物質の精度を検証した研究を対象とした。センチネルリンパ節から複数の切片を切り出し、抗体マーカーを用いてがん細胞を染色(免疫組織染色、IHC)してから顕微鏡で詳細に観察(ウルトラステージング)した研究に限定した。
主な結果
子宮から最初に流れ込むセンチネルリンパ節を特定するために用いられるあらゆる技術を評価した33件の研究(2,237人の女性)を組み込んだ。以下のような研究が含まれた:青色染料単独が11件、テクネチウム99m(放射性物質)単独が4件、近赤外線で蛍光を発するインドシアニングリーン(ICG)染料単独が9件、青色染料とテクネチウム99mの併用が12件、ICGとテクネチウム99mの併用が1件、追跡物質を子宮頸部(子宮の入口付近)または子宮筋に直接注入、またはそれらを組み合わせたものがあった。全体的に、方法に関する報告が乏しく、研究の質を評価することに限界があった。
これらの検査に関して得られた知見は、以下の2点である。
1.センチネルリンパ節を発見する能力(検出率)にはばらつきがあり、青色色素単独による検査では77.8%の女性でしかセンチネルリンパ節を検出できなかったのに対し、テクネチウム99m単独では80.9%、青色色素とテクネチウム99mの併用では86.3%、ICG単独では92.4%、ICGと青色色素の併用では96.7%、ICGとテクネチウム99mの併用では100%であった。センチネルリンパ節が検出されないと、がん細胞の有無を調べることができないため、その場合はリンパ節切除術を受けるか、子宮内にあったがんのリスク因子に応じじた治療を受けることになる。
2.リンパ節にがん細胞が存在する場合、センチネルリンパ節生検は、がん細胞があるリンパ節を特定したのか、それともがん細胞があるリンパ節を見逃したのか。これは、検査の感度と呼ばれ、偽陰性の結果を回避する能力をさす。センチネルリンパ節が見つかった場合、すべての検査で骨盤内および傍大動脈リンパ節のがん細胞を高い精度で特定することができる(いずれの検査でも、がん細胞のあるリンパ節の90%以上が正確に特定される)。この設定では、センチネルリンパ節の組織学的検査は系統的なリンパ節切除で追加切除されたリンパ節の結果によって変化しないため、偽陽性という結果は起こりえない。
結果が意味すること
どの方法でもセンチネルリンパ節を同定することができたが、ICGを単独で、あるいは青色色素やテクネチウム99mと組み合わせて使用した手法のほうが、より多くのリンパ節を発見できる可能性がある。センチネルリンパ節にがん細胞が含まれていなければ(センチネルリンパ節が陰性)、他のリンパ節にがん細胞が含まれている可能性は10%以下である。しかし、これらの検査は、早期がんでありリンパ節内のがん細胞が少ない可能性が高い女性に限って行われていた。リンパ節やリンパ管に多くのがん細胞が存在する場合、リンパ管がふさがれ、リンパの流れに影響を与える可能性があり、研究によってはセンチネルリンパ節を発見できなかった理由となったかもしれない。
今回のレビューでは、センチネルリンパ節を特定できるかどうかの精度についてのみ検討しており、早期の子宮がんの女性に生存率の向上をもたらすかどうかはわからない。追加治療の必要性を判断するためにセンチネルリンパ節生検を行うと、子宮の検査だけで判断したリスク要因に基づいて治療方針を決定する場合に比べて、生存率が向上するかどうかを示すためには別の臨床試験が必要である。今までの研究では、骨盤内のリンパ節をすべて切除することによる生存率の向上は証明されていないため、この点を知ることは重要である。
《実施組織》 杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2021.12.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013021.pub2》