要点
- 職場でSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)感染を予防する最善の方法に関する質の高いエビデンスは見つからなかった。結果を報告している研究は1件しかなく、その結果については非常に不確かである。
- さまざまな職場介入による利益と害をよりよく理解するためには、より大規模で綿密にデザインされた研究が必要である。
レビューテーマの紹介
新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界的に蔓延している呼吸器感染症である。COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)に感染した人は、重症化する可能性があり、特に高齢者や基礎疾患のある人は死亡するリスクがある。パンデミックの期間中、職場におけるSARS-CoV-2への労働者の曝露を防止または低減しようとする様々な介入が実施されてきた。
調べたかったこと
これらの介入がCOVID-19感染率、欠勤、COVID-19関連死亡、有害事象に及ぼす影響を調査した.
実施したこと
以下の4つのカテゴリーに基づいて介入を検討した研究を検索した。
- 曝露の排除(自己隔離戦略など)
- 技術的管理(同僚や作業員と一般の人々を分離または隔離するための障壁など)
- 管理統制(在宅勤務など)
- 個人用保護具(フェイスマスクやその他の種類の顔を覆うものの使用など)
医療現場以外のあらゆる労働者を対象とした研究も対象とした。検索にあたっては、言語や出版期間に制限は設けなかった。
わかったこと
初期段階では13,000件以上、今回の更新レビューでは10,000件以上の報告をスクリーニングし、2件の研究を含め、合計16,014人の参加者を対象とした。1件の研究は2021年3月18日から2021年6月27日まで英国のイングランドで実施され、もう1件の研究は2020年4月1日から2020年12月31日までイタリアのシチリアとカラブリアで実施された。英国を拠点とする研究(Young 2021)には、24,000人以上の労働者(職員)が登録された。対照群(標準的隔離)の76校では、接触者の追跡調査(コンタクトトレーシング)によりCOVID-19の濃厚接触者と見なされた職員に10日間の自宅での自己隔離を義務付けた。介入群(検査に基づく出勤)の86校では、接触者の追跡調査によってCOVID-19濃厚接触者と見なされた職員は隔離する必要はなく、代わりに7日間毎日迅速抗原検査(イムノクロマトグラフィー法抗原検査)を受けた。迅速検査が陰性であれば、そのスタッフは出勤することができた。迅速検査が陽性であれば、そのスタッフは自己隔離することになる。研究者たちは、COVID関連の欠勤に関して、2つの方法に違いがあるかどうかを知りたかった。イタリアの研究(Vitale 2022)は、大手小売企業2社で実施された。介入の企業の従業員には、販売員、倉庫作業員、肉屋またはパン屋が含まれ(介入群1,987人)、同様の企業が対照となった(対照群1,798人)。介入群は、従業員が発熱やインフルエンザのような症状がある場合は自宅待機するか直ちに退社し、職場へ入った時に体温と酸素飽和度を測定し、COVID-19感染者に濃厚接触した後は検査を受ける必要があった。対照群は標準的な手順に従い、自宅で体温を測定し、COVID-19感染者が確認された後は職場の清掃を行った。どちらのグループも手袋やマスクなどの保護具を着用していた。しかし、この研究では、このレビューの参考となるような結果は報告されていない。
英国の研究(Young 2021)のデータを分析した結果、COVID-19感染者と接触した後に日常的に隔離した場合(対照群)と比較して、検査に基づく出勤という戦略(介入群)によってCOVID-19感染率(あらゆる感染[症候性感染])に変化をもたらすかどうかは不明である。しかし、COVID-19に関連した欠勤率は、検査に基づく出勤(介入群)ではより低いか、同程度かもしれない。しかし、参加者の感染者数が非常に少なかったため、この結果には確信が持てない。死亡率、有害事象、生活の質(QOL)、入院回数は測定していない。さらに、検査に基づく出勤(介入群)の71%がこの戦略に従ったが、研究者たちは標準的な隔離(対照群)のコンプライアンス(遵守)については報告していない。
他に、合計8件の進行中の研究を確認した。これらの研究のうち7件は、感染リスクを排除することを目的とした介入の効果を検討するもので、1件はCOVID-19感染の予防と重症度の軽減における遺伝子組換えカルメット・ゲラン(rBCG)ワクチンの有効性を評価することを目的としている。
エビデンスの限界
データの欠落があり、評価項目の結果を確信できるほど十分な研究がないため、エビデンスに対する信頼性はほとんどない。
本レビューの更新状況
本レビューは2022年5月に出版された元のレビューを更新したものである。今回のレビューでは、2023年4月13日までの研究を検索した。
《実施組織》 阪野正大、伊東真沙美 翻訳[2024.09.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015112.pub3》