論点
新しいモニタリング戦略が、モニタリングの所見、参加者の募集、参加者のフォローアップ、臨床試験における資源の使用などに及ぼす影響に関するエビデンスをまとめた。また、検証された戦略のさまざまな構成要素と、プロセス評価から得られた質的なエビデンスをまとめた。
背景
臨床試験のモニタリングは、参加者の安全性と結果の信頼性を確保するために重要である。診療のモニタリングのために新しい方法が開発されているが、患者の権利と安全、試験結果の品質保証の観点から、既存の方法に劣ることなく有効性が向上するかどうか、これらの新しい方法についてさらなる評価が必要である。臨床試験においてこの疑問を検証した研究、すなわち、臨床試験で使用される様々なモニタリング戦略を比較した研究のレビューを実施した。
研究の特性
国内試験や大規模な国際試験を含む幅広い臨床試験において、様々なモニタリング戦略を対象とした8件の研究を対象とした。これらは、一次(一般)、二次(専門)、三次(高度専門)医療施設で行われたものである。研究規模は32人から4371人、施設数は1施設から196施設であった。
主な結果
本レビューでは、5つの比較を特定した。1つ目の比較として、リスクベース(試験の質や安全性に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定し、評価をすること)のモニタリングと広範な現場でのモニタリングの比較では、その手法で特定されなかった重要または重大なモニタリング所見を有する参加者の割合に関して、リスクベースのアプローチが広範な現場でのモニタリングに劣るというエビデンスは見つからなかったが、広範な現場でのモニタリングのほうが資源の利用が3倍から5倍多かった。2つ目の比較対象として、必要に応じて現地訪問を行う統計学的中央モニタリングと定期的な現地訪問を比較したところ、統計学的中央モニタリングは、現地モニタリングによって支援が必要な施設を特定することができるというエビデンスがいくつか見つかった。3つ目の比較では、ローカル(現場での)モニタリングと中央モニタリングに現地訪問を加えた場合の評価で、現地訪問をした介入では重大または重要なモニタリング所見がある参加者の割合が高いが、絶対的なモニタリング所見は両群とも少ないことがわかった。つまり、現地訪問をしなければ、いくつかのモニタリング所見は見逃されることになるが、見逃された所見が患者の安全や試験結果の妥当性に重大な影響を与えることはないということである。4つ目の比較では、臨床試験の症例報告書(CRF)に記録されたデータが一次資料(患者の診療記録など)と一致するかどうかを確認するために使用される新しいデータ資源検証プロセスを評価した2件の研究において、これらの新しい方法は、ターゲットアプローチと遠隔からのアプローチの両方で、全体のデータ資源検証プロセスと比較してほとんど差がないことが判明した。5つ目の比較では、1件の研究で、計画的な訪問によるモニタリングアプローチと試験実施施設の要請による訪問によるアプローチとの間で、参加者の募集および参加者のフォローアップに差がないことが示された。
エビデンスの確実性
臨床試験における重要なモニタリング所見や主要なモニタリング所見に関して、リスクベースのモニタリングが広範な現場でのモニタリングに劣るものではないことに、中程度の確信がある。残りのエビデンスについては、不正確、研究数が少ない、バイアスのリスクが高いなどの理由で、結果の確実性が低いか、非常に低いものである。理想的には、このレビューで同定された5つの比較対象に対して、すべての結果に対する効果を測定する、より質の高いモニタリングの研究が、より信頼性の高い結論を導き出すために必要である。
《実施組織》 堺琴美、阪野正大 翻訳[2021.12.16]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《MR000051.pub2》