要点
- ストレスの経験に注意を向ける(思考、感情、行動に注意を向けるなど)、またはストレスの経験から意識を遠ざける(運動する、リラックスするなど)個人レベルの介入は、介入後1年まで医療従事者のストレスを軽減する可能性がある。
- 個人レベルの介入を組み合わせることで、介入から2、3か月後まではストレスが軽減される可能性がある。
- 個人レベルで仕事関連の危険因子に焦点を当てた介入がストレスに効果があるかどうかはわからない。
ストレスとは何か?
現在のところ、(仕事に関連した)ストレスの明確な定義はない。このレビューは、ストレスレベルが低い医療従事者から、 うつ状態や不安につながるかもしれないが、必ずしもうつ状態や不安を生じるとは限らない、中等度の苦痛や燃え尽き症候群の医療従事者についてのものである。ストレスを抱える人は、頭痛や筋肉の緊張、痛みといった身体的症状だけでなく、集中力の低下といった精神的症状も経験する。また、行動的な問題(他人との衝突など)や情緒的な問題(情緒不安定など)を抱えることもある。
医療従事者のストレスに対して何ができるか?
医療従事者のストレスは、組織レベルだけでなく、個人レベルでも取り組むことができる。個人レベルでのストレス管理介入は、以下を目的としている:
- 例えば、認知行動療法や対処技能訓練によって、ストレスの経験(思考、感情、行動)に注意を向ける;
- ヨガ、太極拳、絵を描く、鍼治療などで、ストレス体験から意識を 遠ざける ;
- 仕事の要求の変化など、個人レベルで仕事に関連した危険因子を変える。
何を調べようとしたのか?
現在医療従事者として働いている人たちのストレスを軽減するために、さまざまなタイプの個人レベルのストレス管理介入が、介入なし(あるいは別の介入)よりも優れているかどうかを調べたいと考えた。
何を行ったのか?
医療従事者のストレス管理介入を検討し、ストレス症状について報告した研究を検索した。医療従事者は、直接介護の実践者や関連専門職を含め、何らかの医療サービスを提供する多種多様な職業や専門職で構成されている。
研究結果を比較して要約し、研究方法や規模などの要素に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。
何を見つけたのか?
合計117件の研究が見つかり、合計11,119人の医療従事者が参加していた。ほとんどの研究は参加者を3か月まで、一部は12か月まで追跡したが、1年以上追跡した研究はほとんどなかった。
医療従事者のストレス軽減には、ストレスの経験に注意を向けても向けなくて(意識を遠ざけて)も、ストレス管理介入による効果がある可能性があることを発見した。この効果は介入終了後1年まで続く可能性がある。介入を組み合わせることも、少なくとも短期的には有益かもしれない。介入終了後1年以上経過したストレス管理介入の長期的効果は、依然として不明である。同じことが、(個人レベルの)仕事関連の危険因子に対する介入にも当てはまる。
エビデンスの限界は?
個人レベルのストレス管理介入の効果の推定値にはバイアスがかかっている可能性があるが、これは対象研究の参加者の盲検化が不十分であったためである。さらに、多くの研究は比較的小規模であった。これらを総合すると、発見した効果に対する信頼性は低下する。
本エビデンスはいつのものか?
2022年2月時点におけるエビデンスである。
《実施組織》 阪野正大、伊東真沙美 翻訳[2023.09.20]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD002892.pub6》