褥瘡の予防や治療に最も有益な食事やサプリメントはどれか、また、望ましくない影響はないか。

要点

- 確固としたエビデンス(科学的根拠)がないため、褥瘡の予防および治療に対するほとんどの食事やサプリメントのベネフィット(有益性)および望ましくない影響は不明である。

- エネルギー+タンパク質+微量栄養素、タンパク質+アルギニン+亜鉛+抗酸化物質、アルギニン+微量栄養素コラーゲンの補充は、褥瘡の治癒には標準的な食事だけよりも良いかもしれない。

- 褥瘡の予防および治療に対する栄養学的介入の真の影響を明らかにするためには、より多くのサンプルを用い、同じ転帰をより長い追跡期間で調査する、より多くの良質な研究が必要である。

栄養学的介入とは何ですか?

栄養学的介入とは、一般的な健康状態や特定の状態を改善するために、通常の食事に加えて特別な食事や補助食品を加えることである。カロリー、マクロ栄養素(タンパク質など)、微量栄養素(ビタミンやミネラルなど)の補充などがこれに相当する。経口または経管(経管栄養と呼ばれる)で投与される。また、点滴や注射(非経口栄養)によって投与することも可能である。

褥瘡のある人や褥瘡を発症するリスク(危険)のある人にとって、なぜ栄養が重要であるのか

褥瘡は、床ずれ、褥瘡性潰瘍とも言う。圧迫、剪断(ずれ)、摩擦によって皮膚や皮下組織、あるいはその両方が傷害されるものである。皮膚が圧迫されると血行が悪くなる。剪断(ずれ)とは、例えばベッド上で患者が動いたときに、皮膚と組織の層が互いに滑り合うことである。摩擦とは、皮膚がベッドシーツや衣服とこすれ合うことである。褥瘡は、通常、踵や尾骨など、体の骨ばった部位にできることが多い。転倒や手術などで体を動かせなくなった人、糖尿病や血管障害などの疾患がある人は、褥瘡になるリスク(危険)がある。栄養状態が悪いと、褥瘡のリスク(危険)が高くなり、重症化する可能性がある。

何を調べようとしたのか

栄養学的介入が、褥瘡の発症予防および既存の褥瘡の治癒促進に有用であるかどうかを明らかにしたいと考えた。

栄養学的介入が以下の点に及ぼす影響に着目した:

- 褥瘡の発生または治癒

- 個人に及ぶ可能性のある望ましくない影響

- 個人の生活の質(Quality of Life: QOL)

何を行ったのか

通常の食事、プラセボ(偽薬)、または別の種類の栄養学的介入と比較したあらゆる形態の栄養学的介入を調査した研究を検索した。類似した栄養学的介入を検討した研究結果を比較および要約し、研究方法やサンプルサイズなどの要因に基づいてエビデンスに対する信頼性を評価した。

何が見つかったのか?

参加者7920例を対象とした33件の研究が同定された。11件の研究では褥瘡の予防に対する栄養学的介入の影響を検討し、24件の研究では褥瘡の治療に対する栄養介入を評価していた。その中で、褥瘡の予防と治療の両方に対する影響を調べた研究が2件あった。

主な結果

褥瘡が発症するリスク(危険)がある人における予防

- エネルギー、タンパク質、微量栄養素の補充は、褥瘡の発症にほとんどあるいは全く影響を与えない可能性がある(3件の研究、1,634例)。

- タンパク質を補充しても、褥瘡発症にほとんどあるいは全く差はない可能性がある(4件の研究、4,264例)。タンパク質の補充が望ましくない影響を引き起こすかどうかは不明である。

- 他の栄養素の補充が褥瘡の発症に影響を及ぼすかどうかは不明である。

褥瘡がある人の治療

- エネルギー、タンパク質、微量栄養素の補充によって、褥瘡が治癒した人の数は増えるかもしれないが、この結果は非常に不確かである(3件の研究、577例)。エネルギー、タンパク質、微量栄養素の補充が望ましくない影響を引き起こすかどうかは不明である。

- 標準的な食事と比較して、タンパク質、アルギニン、亜鉛、抗酸化物質の補充が褥瘡の治癒を改善するかどうかは不確かである(2件の研究、71例)。タンパク質、アルギニン、亜鉛、抗酸化物質の補充が望ましくない影響を引き起こすかどうかは不明である。

- アルギニンと微量栄養素の補充によって治癒する褥瘡の数は増えるかもしれないが、その数はわずかに増える程度と考えられる(2件の研究、231例)。介入が受容可能性や望ましくない効果に影響を及ぼすかどうかは不明である。

- コラーゲンの補充はおそらく褥瘡治癒を促進する(1件の研究、74例)。介入は望ましくない影響を増加させるかもしれないが、この結果は非常に不確かである。

- 他の栄養素の補充が褥瘡の治癒に影響があるかどうかは不明である。

エビデンスの限界は何か

研究の多くが小規模で質が低く、着目点としていたすべてについてデータを提供していなかったため、調査結果に対する確実性は非常に低い。約半数の研究が製薬会社からの資金提供や支援を受けており、それが結果に影響を与えた可能性がある。いくつかの種類の栄養学的介入に関する研究については、その食事またはサプリメントが1件の研究で調査されただけであったため、研究データは使用できなかった。

本レビューの更新状況

本レビューは2022年5月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2024.10.31] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD003216.pub3】

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