婦人科良性疾患に対する子宮摘出術の外科的アプローチ

レビューの論点

婦人科良性疾患がある女性の子宮摘出術において、最も効果的で安全な手術はどれかを検討した。

背景

良性の婦人科疾患(子宮異常出血、子宮脱、子宮筋腫など)に対する子宮摘出術は、最もよく行われている婦人科手術の一つである(60歳までの女性の30%、米国では年間59万件)。子宮摘出術は、いくつかのアプローチによって行うことができる。腹式子宮摘出術では、下腹部を切開して子宮を摘出する。腟式子宮摘出術では、腹部を切開することなく、腟から子宮を摘出する。腹腔鏡下子宮摘出術では、腹部に開けた小さな切開から器具をお腹の中に入れて操作し、子宮を摘出する。子宮は、腟から摘出されることもあれば、細かく切った後に腹部に開けた小さな切開から摘出されることもある。腹腔鏡下子宮摘出術には、経腟的に行われる手術に比べると実施可能な手術の範囲が広く、さまざまな方法がある。最近では、腹腔鏡下子宮摘出術はロボット手術で行われるようになった。ロボット手術では、手術はロボットによって行われ、人間の外科医は手術室の一角に置かれた椅子に座ってロボットを操縦する。さらに最近では、腹腔鏡下手術の器具を腟内の切開部から挿入して、子宮を摘出する術式(経腟的内視鏡手術、vNOTES)が行われるようになってきた。良性疾患に対して子宮を摘出する必要がある女性が、自分自身にとって最も良い選択をするためには、それぞれの術式の相対的な有益性と有害性について十分な情報を得ることが重要である。

研究の特徴

63件のランダム化比較試験(RCT)を解析した。RCTとは、研究に参加した人々が異なる治療法のうちのいずれかに無作為に割り付けられるという研究手法である。この種の研究は、通常、治療が本当に有効かどうか、つまり本当に患者の役に立つかどうかを評価する最良の方法である。系統的レビューは、あるテーマについて利用可能なRCTを体系的にまとめたものである。

解析した研究には、合計6,811人の女性が参加していた。これらの研究では、腟式と腹式子宮摘出術(12研究、女性1,046人)、腹腔鏡下と開腹式子宮摘出術(28研究、女性3,431人)、腹腔鏡下と腟式子宮摘出術(22研究、女性2,135人)、腹腔鏡下とロボット支援下子宮摘出術(3研究、女性296人)、腹腔鏡下と経腟的内視鏡手術(2研究、女性96人)が比較されていた。また、異なる腹腔鏡下子宮摘出術の比較も含んだ。すなわち、腹腔鏡の器具を入れる小切開の数が1つ(単孔式)か複数(多孔式)かの比較(7研究、女性613人)、腹腔鏡下子宮摘出術と腹腔鏡補助下腟式子宮摘出術の比較(3研究、女性233人)である。主要な評価項目は、日常生活への復帰、満足度、生活の質(QOL)、手術合併症であった。

主要な結果

腟式子宮摘出術は、腹式子宮摘出術よりも日常生活への復帰がおそらく早い。腹式子宮摘出術後の日常生活への復帰が42日と仮定すると、腟式子宮摘出術後は24~38日であった。その他の主要な評価項目については、群間に差があるかどうか不明である。しかし、数値化されていないデータによると、腹式子宮摘出術と比較して、腟式子宮摘出術の方が術後のQOLが改善されるかもしれない。

腹腔鏡下子宮摘出術もまた、腹式子宮摘出術よりも日常生活への復帰が早いと思われる。この結果から、腹式子宮摘出術後の日常生活への復帰を37日と仮定すると、腹腔鏡下子宮摘出術後は22~25日であった。しかしながら、腹腔鏡下子宮摘出術は、尿管(腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管)を損傷するリスクが高い。腹式子宮摘出術における尿管損傷率を0%とすると、腹腔鏡下子宮摘出術における尿管損傷率は0~2%となる。腹腔鏡下子宮摘出術と経腟式子宮摘出術、腹腔鏡下子宮摘出術とロボット支援下子宮摘出術、腹腔鏡下手術と経腟的内視鏡手術のそれぞれの比較においては、主要な評価項目について差があるかどうか不明である。多くの研究では、患者の満足度やQOLに関する情報は含まれていなかった。

以上から、可能な限り腟式子宮摘出術を行うべきであると結論づける。腟式子宮全摘術が不可能な場合、腹腔鏡下手術は腹式子宮摘出術よりも有益性があるが、尿管損傷のリスクが高い。これらの長所と短所は、患者との意思決定プロセスに組み込まれるべきである。

エビデンスは、2022年1月現在のものである。

エビデンスの確実性

ほとんどの比較について、エビデンスの信頼度は低いか中程度であった。主な限界は、研究方法の報告が不十分であったことと、得られたエビデンスが発生頻度の非常に低い事象にもとづいていることであった。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳[2024.05.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD003677.pub6》

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