論点
早期に発見された口腔がん(口のがん)および中咽頭がん(喉のがん)の治療法は主に手術や放射線療法である。いずれの治療法もがんの治癒や延命に有効である。しかし、手術や放射線療法のみではがんが再発する可能性があり、患者の余命が短くなることがある。手術または放射線療法に化学療法を追加することによって余命が長くなる場合がある。
重要である理由
化学療法は、がん細胞のような急速に分裂する細胞を殺すことによって作用する薬剤である。体内には、皮膚や腸内など他にも分裂の早い細胞がある。化学療法はそのような健康な細胞にも影響を与える可能性があるため、不快な副作用が生じることがある。
がんの治療では、化学療法は手術または放射線療法の前、放射線療法中、手術または放射線療法による治療の後に行われることがある。また化学療法には、錠剤として内服するものと静脈から投与するもの(静脈内投与)がある。このような化学療法の投与方法や種類の差によって、余命にさまざまな影響を及ぼす可能性がある。現時点では、最善の方法はわかっていない。
本レビューは2011年に公表されたレビューの更新版である。
知りたかったこと
化学療法に手術または放射線療法を併用することによって生存期間が改善されるかを知りたかった。また、化学療法を手術または放射線療法と併用することによって、がんが縮小する可能性が高まるか、併用療法によってがんの再発リスクが低下するかも知りたかった。
実施したこと
口腔がんまたは中咽頭がんの成人(18歳超)患者を対象として、放射線療法または手術のいずれかによる治療前、治療中あるいは治療後に化学療法を追加することを評価した研究を複数の電子データベースで検索した。
研究を4つのグループに分類し、各カテゴリー内の結果を統合した。見つかったエビデンスの信頼性を評価した。
レビューの対象とした試験
化学療法と手術または放射線療法の併用を評価した100件の研究を見出した。世界中の患者計18,000人超が含まれた。そのうち36件が手術または放射線療法前の化学療法、11件が手術または放射線療法後の化学療法、30件が放射線療法と化学療法の併用を評価しており、23件が手術または放射線療法の前、同時、後に投与した異なる化学療法薬を評価していた。
主な結果
手術または放射線療法前の化学療法が生存期間を改善させるという明確なエビデンスはなかった。同様に、手術後の化学療法も生存期間の改善につながらないと考えられた。
手術後の放射線療法と化学療法の併用は、手術後の放射線療法単独と比較して、生存期間を改善させる可能性があることがわかった。また、手術に適していない患者の場合、放射線療法に化学療法を追加すると、放射線療法単独と比較して、生存期間が改善する可能性がある。最適な化学療法薬を判断するには十分なエビデンスがなかった。
結果の信頼性
検討対象とした研究には、対象者の種類や人数、投与された化学療法薬剤の種類に差があった。このような差は結果に影響を与える可能性がある。そのため、今回の結果は確定的ではなく、今後の研究によって結論が変わる可能性がある。
結果が意味すること
今回の結果は、口腔がんまたは中咽頭がんの手術を受けた患者に対して、放射線療法への化学療法の追加を支持するものである。手術に適していない患者では、放射線療法単独と比較して、放射線療法と化学療法の併用が支持される結果である。
このような状況以外での化学療法の使用を支持するエビデンスは不十分であると結論付けた。本結果によって、化学療法を手術または放射線療法と併用することについて、さらに研究の必要性があることが浮き彫りになったと考えられる。
本レビューの更新状況
本レビューは2021年9月に更新された。
実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)吉田 加奈子 翻訳、斎藤 千恵子(ロズェルパーク癌研究所病理部)監訳 [2022.02.05] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD006386.pub4》