気管支肺異形成を発症する危険がある早産児を副腎皮質ステロイドで治療することの利点とリスク

要点

気管支肺異形成のリスクが高い新生児に対する唯一の有効な治療法は、現在のところ、 生後1週間以降 に投与するデキサメタゾンによる治療である。

副腎皮質ステロイドを界面活性剤とともに気管に直接投与することが、将来有望な治療法になるかもしれない。

生後1週間までに デキサメタゾンを投与したり、 生後のどこかの時点で ヒドロコルチゾンを投与したりする治療法は効果がないか、あるいは安全ではない可能性がある。

気管支肺異形成とは

超早産や早産で生まれた赤ちゃんは、医学用語で気管支肺異形成(BPD)と呼ばれる肺損傷のリスクが高い。BPDの赤ちゃんは、BPDではない赤ちゃんに比べて死亡する確率が高く、死亡を免れてもその後の人生に(肺の状態が悪い、再入院の頻度が高い、小児期の発達が悪いなど)悪影響を受ける。BPDの原因の一つは肺の炎症である。炎症は、傷害に対する身体の一般的な反応である。

BPDの治療法

副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)は炎症に作用する(赤ちゃんの免疫反応を鎮め、腫れを抑える)薬であり、BPDの予防や治療のために早産児に投与される。しかし、ステロイドによって重篤な副作用(腸管穿孔(消化管に穴が開く)や小児期の発達の悪化など)が起こることもある。早産児に使用されるステロイドの例として、デキサメタゾンやヒドロコルチゾンがある。

調べたかったこと

BPDになるリスクのある早産児に、ステロイドを使ったどのような治療法が最も効果的かを調べたいと考えた。また、治療法に好ましくない副作用があるかどうかも知りたかった。

実施したこと

ステロイドによる治療を受けたBPDリスクのある早産児を含む系統的レビューを探した。系統的レビューは、特定のテーマに関する全研究を要約したものである。

さまざま治療法を以下の4つのカテゴリーに分類した。

- 効果的な治療法:好ましい作用の方が好ましくない作用よりも多いか大きい。

- 有望な治療法:好ましい作用が認められるが、誰にでもこの治療法を使うには十分な確信がまだ得られていない。このような治療法はさらに研究が必要である。

- 効果がないか、安全ではない可能性がある治療法:治療が効かないか、好ましい作用よりも好ましくない作用の方が多い、または大きい。

- 結論を出すことができないもの:その治療法についてまだ十分にわかっていない。

わかったこと

系統的レビュー9本が見つかり、88件の研究が要約されていた。これらの研究では、の早産児9,419人を対象にステロイドを用いた各種の治療法が行われていた。各治療法は、ステロイドの種類、治療開始時の赤ちゃんの年齢、投与量、投与方法という点で異なっていた。

主な結果

効果的な治療法

生後1週間以降の デキサメタゾンによる治療は、赤ちゃんの生存率を高め、BPDを減少させる可能性があり、BPDのリスクが高い赤ちゃんには安全であると思われる。

有望な治療法

ステロイドをサーファクタント(界面活性剤:呼吸のたびに肺が開いたままになるようにする物質で、生後数日間のうちに、呼吸に問題のある早産児によく使われる)とともに気管に直接投与すると、良好な効果をもたらす可能性が高いと思われるが、まだ十分に検討されていない。これが将来有望な治療法になるかもしれない。

効果がないか、安全ではない可能性がある治療

生後1週間以内に デキサメタゾンを投与すると、BPDを発症せずに生存できる可能性が高くなるが、重篤な副作用(腸穿孔や痙縮(筋肉が硬直すること)の発現など)がある。 生後1週間以内に ヒドロコルチゾンを投与すれば、BPDを発症せずに生存できる可能性が高くなるかもしれないが、重篤な副作用が多すぎて使用できない。 生後1週間以降に ヒドロコルチゾンを投与しても、生存率やBPDには影響がないと思われる。

結論を出すことができない治療

副腎皮質ステロイドの吸入による治療が有効かどうか、あるいは点滴や経管栄養よりも優れているかどうかについては、十分な情報がない。

エビデンスの限界

レビューに含まれる研究の結果には、低から中等度の信頼性があると考える。これは、対象となった赤ちゃんのタイプや行われた治療が研究によって異なるためである。また、多くの研究は参加者が少なく、非常に小規模であった。その結果、BPDの予防や治療にステロイドを使用する最良の方法については不明である。

本エビデンスの更新状況

この検索は2023年4月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》 小林絵里子、ギボンズ京子 翻訳[2025.01.18]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013271.pub2》

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