ホルモン剤による避妊をしていない人と比較した、ホルモン剤による避妊をしている人が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった時に血栓を発症する確率

論点

COVID-19になった人の、心臓発作や脳卒中を含む血栓の発生やその他の重篤な結果に対するホルモン剤による避妊法の影響に関するエビデンスを検討した。エストロゲンとプロゲスチンの両方を含む避妊薬を服用している人と、ホルモン剤を使用しない避妊をしている人、プロゲスチンだけを含む避妊薬を服用している人を比較検討したいと考えた。該当する研究は5件しか見つからなかった。

背景

ホルモン剤による避妊、特にエストロゲンを含む避妊薬の使用は、足や肺に血栓ができる可能性を高めたり、脳卒中になる可能性を高めたりすることがある。また、COVID-19の発症により、足や肺に血栓ができることも確認されている。ホルモン剤による避妊をしている人がCOVID-19になった場合、血栓ができる可能性が高いかどうかはわかっていない。ホルモン剤による避妊をしている人がCOVID-19陽性になった場合、避妊薬の使用を止めるべきか、違う避妊法に切り替えるべきかを知ることができるよう、さらなる研究が必要である。

研究の特性

2022年3月までに発表された研究を対象とした。避妊をした人(特に、ホルモン配合剤のようにエストロゲンを含む避妊薬を使用した人)における、避妊をしなかった人と比較した、血栓を作るリスク、入院するリスク、呼吸器などの高度なケアを必要とするリスク、COVID-19による死亡リスクについて報告している研究を探した。研究数が非常に少なかったため、避妊をしている人でCOVID-19になって血栓ができた群についてのみ報告しており、異なる群と比較していない研究についても調べた。本レビューでは5件の研究を組み入れた。18,892人を対象とした1件の研究では、ホルモン配合剤による避妊法を使用している人がCOVID-19になって死亡するリスクを調べていた。295,689人を対象とした別の1件の研究では、COVIDの症状を記録するスマートフォンのアプリケーションを利用した、ホルモン配合剤による避妊法を使用している人の入院リスクを調べたが、COVID-19の検査は行っていない。123人を対象とした3件目の研究では、COVID-19になった人が、何らかのホルモン剤による避妊をしている場合の入院リスクを調査していた。最後に、COVID-19で血栓を発症した計13人を対象にした2件の研究では、それらの人のうちホルモン配合剤による避妊法を使用していた人の数を調べていた。

主な結果

1件の研究では、ホルモン配合剤による避妊をしている人としていない人の間で、COVID-19による死亡リスクが同程度であると報告されているが、そのエビデンスは非常に不確かなものであった。

1件の研究の結果に基づき、ホルモン配合剤による避妊法を使用している人は、COVID-19による入院のリスクがわずかに減少する可能性があるが、そのエビデンスは非常に不確かであった。より小規模な1件の研究の結果によると、COVID-19になった人の入院リスクに対して、いかなる種類のホルモン剤による避妊もほとんど影響しないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かであった。

ホルモン剤による避妊は、COVID-19になった人が呼吸器を必要とするリスクにほとんど影響を与えないかもしれないが、そのエビデンスは非常に不確かである。

COVID-19になった13人の女性・少女に血栓が発生したことを記述した報告では、そのうちの2人がホルモン配合剤による避妊をしていたことが判明している。

ホルモン剤による避妊をする人におけるCOVID-19になった時の心臓発作や脳卒中のリスクに関するエビデンスは見つからなかった。

ホルモン配合錠による避妊をしている人がCOVID-19になった時の、黄体ホルモンだけを含む避妊薬を使用している場合との比較については、どの評価項目においてもエビデンスは見つからなかった。

全体として、収録できた研究は少なく、いずれもデザインに重大な問題があり、エビデンスの解釈が非常に困難であった。ホルモン剤による避妊をしている人がCOVID-19になった時の血栓に関連した害のリスクについては、非常に不確かなエビデンスであった。ホルモン剤による避妊をしている人は、入院のリスクが同程度か減少する可能性がある。

エビデンスの確実性

エビデンスの確実性は低い。なぜなら、対象とした研究が、血栓を生じるリスクになるような事柄など、本レビューの関心の対象である重要な情報を提供できていないからである。更に、これらの研究には、本レビューが本当に調べたかったタイプの人、すなわち、COVID-19になったかどうかを検査で確認された人や、COVID-19になった時点で避妊薬を服用していたことが確認された人ばかりが含まれているわけではなかった。また、研究数も限られているため、その結果については確信が持てない。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2023.01.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD014908.pub2》

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