吸入コルチコステロイドは、軽度のCOVID-19の人に有効な治療法なのか?

要点

経口の吸入経路で投与される吸入コルチコステロイド(抗炎症薬)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として評価されている。

軽症者を対象に実施して、発表された3件の研究を特定した。吸入コルチコステロイドは、おそらく、病院に行く、または死亡(入院や入院前の死亡)に対するリスクを減少させる。吸入コルチコステロイドは、軽度のCOVID-19の症状がある日数を減らす可能性があり、おそらく14日目のCOVID-19の症状を消失させる。あらゆる原因による死亡にはわずかから全く差がない可能性があり、重大な害を引き起こすかどうかを知るには十分なエビデンスがない。

症状のない(無症状)COVID-19患者、中等症から重症のCOVID-19患者のデータは存在しない。

10件の進行中の研究と4件の終了した未発表の研究が特定された。その結果が発表され次第、本レビューを更新する予定である。

吸入コルチコステロイドとは何か?

吸入コルチコステロイドは、吸入器を使って下気道に吸入することで、肺の炎症を抑える薬である。この薬は、喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器系疾患の治療に通常は使用される。長期間の使用や誤った吸入方法によって、鵞口瘡と呼ばれる口の感染症、声の変化、肺炎のリスク増加などの副作用が発生することがある。上手な吸入方法とは、薬が口やのどに残らないようにすることである。

なぜ吸入ステロイドがCOVID-19の治療法になりえるのか?

COVID-19は主に肺と気道に影響を及ぼす。ウイルスに対して免疫系が作用すると、肺や気道に炎症が起こる。この炎症により呼吸困難となり、肺は血液中に酸素を移動させたり、血液中の二酸化炭素を除去することが容易にできなくなる。

何を知りたかったのか?

無症状のSARS-CoV-2感染(COVID-19の原因ウイルス)、あるいは軽症、中等症、重症のCOVID-19に対して、人々はより多くの、より良い治療の選択肢を必要としている。吸入コルチコステロイドが、どのような環境(例:自宅や病院)でもCOVID-19に有効で有用な治療選択肢となるか、また望ましくない作用を引き起こすかどうかを検討した。

以下の点に着目した:

- 30日目、60日目までの、または報告があればそれ以降の、あらゆる原因による死亡;

- 30日以内の入院または死亡;

- 症状が治まったかどうか、またその症状が治まるまでの早さ;

- 生活の質 (QOL);

- 望ましくない影響。

このレビューで実施したことは何か?

吸入コルチコステロイドと標準的な治療の組み合わせを標準的な治療のみと比較し、時には有効成分を含まないが同じ方法で投与されるダミー薬(プラセボ)を追加して比較した研究を検索した。比較の偏りを少なくし、より公平にするために、試験に参加した患者は全員、吸入コルチコステロイドか他の治療を受けるか、同じ確率(コイン投げのように)になるようにした。年齢、性別、人種を問わず、あらゆる人々を対象とした。

研究結果を比較・要約し、研究方法や規模などの要素から、エビデンスの確実性を評価した。

何がわかったのか?

軽症のCOVID-19と確定診断された患者を対象に、吸入コルチコステロイド+標準的な治療と、プラセボあり/なし+標準的な治療を比較した3件の試験を特定した。これらの研究では、ほとんどが50歳以上で他の医学的問題を持っている2,171人の参加者を分析した。そのうちの52%は女性であり、1,057人が吸入コルチコステロイドを投与されていた。無症状の感染者、または中等症から重症のCOVID-19の確定診断を受けた人を対象とした研究は見つからなかった。

また、現在進行中の研究が10件、結果が公表されていないが終了した研究が4件見つかった。

主な結果

すべての研究で、吸入コルチコステロイドと標準的な治療またはプラセボが比較された。これらの研究では、SARS-CoV-2に感染していると確定診断され、軽症の人のみを対象とした。入院患者や無症状のSARS-CoV-2感染者を対象とした研究はない。吸入コルチコステロイドは、

- 30日目までの、あらゆる原因による死亡にわずかから全く差がない可能性がある。

- 30日目までの入院や死亡のリスクを減少させる可能性がある。

- 14日目におけるCOVID-19症状の消失を増加させ、症状消失までの時間を短縮させる可能性がある。

重篤な副作用が起きる可能性の違いについては、非常に不確実である。さらに、吸入コルチコステロイドは、あらゆる望ましくない効果や新たに発症する感染症の数において、ほとんど差がない可能性がある。

エビデンスの限界は何か?

この研究は、COVID-19のワクチン接種プログラムが実施される前に裕福な国の人々を対象に実施されました。14日目の症状消失と入院という結果については、エビデンスに対する確実性は中等度である。軽症のCOVID-19の患者のあらゆる原因による死亡と症状消失までの時間に対する効果については、エビデンスの確実性が低い。研究者による結果の記録や報告方法の違いにより、望ましくない、あるいは重篤な望ましくない影響や感染症に対する確実性は低い、あるいは非常に低い。無症状感染者または中等症から重症のCOVID-19で入院している患者については、エビデンスがなかった。

このレビューの更新状況

エビデンスは、2021年10月7日までのものである。

訳注: 

《実施組織》堺琴美、阪野正大 翻訳[2022.04.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015125》

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