成人にみられる術前および術後の不安に対するメラトニン

レビューの論点

手術を受ける成人の術前および術後の不安に対するメラトニンの効果について、プラセボまたはベンゾジアゼピン系鎮静剤と比較したランダム化比較試験の科学的根拠(エビデンス)のレビューを実施した。

背景

しばしば人は手術の前後には、心配で不安になる。手術を受ける人の80%は不安を感じている。病気のこと、入院が必要なこと、身動きがとれなくなること、麻酔、手術、痛み、自分の置かれた状況などに対して心配になることがある。

不安のリスクに影響を与える要因として可能性があるのは、年齢(若年層)、女性であること、手術の種類、麻酔の種類、文化や宗教の違いなどがある。不安になると痛みが増し、追加の疼痛管理が必要となる。

不安を軽減するための介入としては、ベンゾジアゼピン系薬剤などの抗不安鎮静剤、手術前後の情報提供や効果的なコミュニケーション、認知行動療法、音楽、マッサージ療法などがあげられる。

ベンゾジアゼピン系薬剤は、単回投与でも記憶力や集中力の低下、日中の眠気などの認知機能の低下を引き起こし、協調性や身体動作に支障をきたす可能性がある。

メラトニンは、脳の松果体で生成されるホルモンで、概日リズムを調整する働きがある。概日リズムとは、1日のサイクルに沿った身体や行動の変化で、睡眠パターンを決定するのに役立つものである。複数の研究から、メラトニンによって不安を軽減できることがわかってきている。メラトニンは認知機能にほとんどまたはまったく問題はなく、重篤な副作用も認められていない。つまり、医学的な治療に代わる価値ある治療法となる可能性がある。

検索日

今回のアップデートのエビデンスは、2020年7月現在のものである。

研究の特性

2319例の成人参加者を対象とした、手術前にメラトニンを投与した場合の手術前後の不安度に対する効果を検討した27件のランダム化比較試験を同定した。ほとんどの研究は、発展途上国で実施されていた。全身麻酔、区域麻酔、局所麻酔を用いたあらゆる種類の外科手術を対象とした。

メラトニンの投与量は、3~10mgまたは0.05~0.4mg/kgであった。ベンゾジアゼピン(ミダゾラム、オキサゼパム、アルプラゾラム)の投与量は、0.25~15mgまたは0.05~0.2mg/kgであった。

いずれの研究も、医薬品メーカーや商業的利益を有する機関からの資金提供を受けたことを報告していなかった。

主要な結果

メラトニンとプラセボを比較した研究が24件、メラトニンとベンゾジアゼピン系薬剤を比較した研究が11件であった。また、一部の研究では、メラトニンとガバペンチン、プレガバリンおよびクロニジンとの比較も行われた。

メラトニンは、プラセボと比較して、手術前の不安を軽減した(18件の研究、1264例の参加者、確実性が中等度のエビデンス)。

手術後の不安の軽減(7件の研究、524例の参加者、確実性の低いエビデンス)は、手術後6時間の時点も含め(2件の研究、73例の参加者、確実性の低いエビデンス)、プラセボと比較して小さかった。

メラトニンは、手術前(7件の研究、409例の参加者、確実性が中等度のエビデンス)および手術直後(3件の研究、176例の参加者、確実性の低いエビデンス)の不安のレベルに対してベンゾジアゼピン系薬剤と同様の効果を示す可能性がある。

14件の研究では有害事象の報告はなく、6件では副作用は認められなかったと報告され、7件では吐き気、眠気、めまい、頭痛などの症例が報告された。ベンゾジアゼピン系薬剤は、プラセボやメラトニンよりも精神運動機能や認知機能を阻害した(11件)。メラトニンもプラセボと比較して鎮静作用を示したが、ベンゾジアゼピン系薬剤が最も高い鎮静作用を示した(14件)。重篤な有害事象は報告されなかった。

エビデンスの質

メラトニンがプラセボと比較して術前の不安を軽減することに中等度の確信がある。プラセボと比較した場合、術直後および術後しばらくして生じる不安に対する効果は明らかではない(質の低いエビデンス)。

抗不安効果に関して、メラトニンとベンゾジアゼピン系薬剤との間に差があるというエビデンスは得られなかった(質が中等度および低いエビデンス)。

メラトニンの不安軽減効果が、すべての手術患者に当てはまるかどうかは依然として不明である。

結論

手術前にメラトニンを投与することで、手術前の不安を効果的に軽減できる可能性はあるが、メラトニンによる手術後の不安の軽減は、プラセボと比較した場合、効果が明らかということはない。

訳注: 

《実施組織》 厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2021.11.12] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009861.pub3》

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