要点
抗血小板薬は、致死的となる血管内における血栓形成(「血栓イベント」)を予防可能な薬剤の1つである。抗血小板薬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者において、血栓イベントをわずかに減少させるが、プラセボ(偽の治療)や標準治療と比較して、死亡、臨床的悪化、COVID-19の改善には影響がない可能性がある。
しかし、抗血小板薬は、重篤な望ましくない作用(有害事象)をわずかに増加させ、大出血事象を増加させる可能性がある。
外来患者の場合、同様に抗血小板薬は血栓イベントをわずかに減少させるが、死亡または重篤な有害事象にはほとんど、または全く差がない可能性があり、また入院や死亡、大出血事象におけるエビデンスは非常に不確実である。
また、14件の研究は未完了であり、他の3件の研究結果はまだ得られていない。
抗血小板薬とは何か?
抗血小板薬は、血液が血栓と呼ばれるゲル状の物質に変化する現象(「血栓イベント」と呼ばれる)を防止する薬剤の一つである。抗血小板薬は主に経口投与で使用され、通常、血栓症のリスクが高い患者(すでに血栓症の既往がある患者や、血栓ができやすい患者)に投与される。
血栓は脳卒中、冠状動脈性心臓病、足の血行不良、足の血栓症、および肺循環の血栓による閉塞(塞栓症)を引き起こし、息切れや心不全を起こし、死に至る場合もある。
抗血小板薬はCOVID-19をどのように治療するのか?
COVID-19の患者には血栓症のリスクがある。抗血小板薬は血栓の形成を防ぐため、死亡や臨床的悪化につながる合併症を予防できる可能性がある。
何を調べようとしたのか?
成人のCOVID‐19患者に対し、通常の治療に加えて抗血小板薬を投与することが有効であるかどうかを、通常の治療にプラセボ(見た目や味は治療薬と同様だが、有効成分を含まない偽の薬)を投与した場合と投与しなかった場合について比較し、また有害事象を引き起こすかどうかを知りたいと考えた。そのために、特に以下の項目について調査を行った:
- 治療後28日までの、または報告がある場合はそれ以降における、あらゆる原因による死亡者数;
- 治療後に患者の状態が改善したか、または悪化したか(血栓イベント等の疾患自体による有害事象を含む);
- 治療による有害事象(特に大出血事象)
何を行ったのか?
COVID-19患者に対し、抗血小板薬と通常の治療を併用した場合、または通常の治療のみ(プラセボあり/なし)を行った場合について報告している研究について検索を行った。研究結果を要約し、エビデンスの信頼性について共通の基準に基づいて評価した。
何が見つかったのか?
合計17,541人の中等症から重症のCOVID-19入院患者を含む4件の研究が見つかった。そのうち1件はアセチルサリチル酸(アスピリン)と通常の治療を比較したもので、2件はP2Y12阻害薬(クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルなど)と通常の治療を比較したもの、4件目はアセチルサリチル酸またはP2Y12阻害薬と通常の治療を比較したものであった。これらの研究の参加者は、SARS-CoV-2感染の確定診断または疑いの診断を受けていた。2件の研究では、合計4,209人の軽症のCOVID-19外来患者を対象として、アセチルサリチル酸とプラセボが比較されていた。
また、現在進行中の研究が14件、結果が公表されていない研究が2件、プレプリント(正式に掲載される前の版)が出された後に撤回された研究が1件見つかった。COVID-19に感染しているが症状のない場合を対象とした研究は見つからなかった。
主な結果
抗血小板薬:
- 28日目または180日目までにおける死亡、28日目までにおける症状の悪化(新たな侵襲的人工呼吸管理の必要性、または死亡)、または28日目までにおける症状の改善(生存および退院)にほとんど、または全く影響がなく、血栓イベントをわずかに減少させる可能性がある;
- 重篤な有害事象がわずかに増加し、大出血事象を増加させる可能性がある。
外来における軽症患者では、抗血小板薬は45日以内の死亡や重篤な有害事象の発生率にほとんど、または全く影響せず、血栓イベントの発生率をわずかに減少させる可能性がある。これらの患者における症状の悪化(45日以内の入院または死亡)および大出血事象への影響についてのエビデンスは非常に不確実である。また、生活の質(QOL)や一般的な有害事象については報告がなかった。
エビデンスの限界は何か?
これらの研究は高所得国から中所得国において実施され、その多くはCOVID-19のワクチン接種プログラムが実施される前であり、またオミクロン株が流行の中心になる前であった。入院患者における死亡率、28日目までにおける症状の悪化または改善、大出血事象、または血栓イベントの発生に関するエビデンスの信頼性は中等度であった。重篤な有害事象はほとんど見られなかったため、エビデンスの信頼性は低かった。外来患者については、死亡、血栓イベント、および重篤な有害事象についてのエビデンスの信頼性は低く、症状の悪化、および大出血事象についてのエビデンスの信頼性は非常に低かった(これらのイベントはまれであり、症状発現から治療までの期間が長かった)。その他の有害事象やQOLに関する情報は得られなかった。
本エビデンスはいつのものか?
2022年12月22日時点におけるエビデンスである。
《実施組織》小泉悠 阪野正大 翻訳[2024.04.01]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015078》