背景
感染は、創傷の正常な治癒過程を妨げる可能性がある。感染のリスクを減らすために、慣例的に創傷の洗浄が行われ、汚れや汚染物、あるいは異物が除去される。このレビューでは、創傷を皮膚の損傷と定義している。
このレビューの目的は何か?
本レビューの目的は、異なる種類の水(水道水、蒸留水、煮沸水など)による創傷洗浄の効果を、洗浄を行わなかった場合、または他の液体(生理食塩水など)を用いた場合とを比較して調査することである。創傷に関連した感染率と、創傷の治癒について調べることにより、洗浄効果の評価が行われた。
コクランの研究者により、関連するすべての無作為化比較試験(RCT)が検索され、その結果、13件の研究が見つかった。RCTとは、被検者が無作為に選ばれ、それぞれに異なる治療を受ける研究方法である。この方法に基づいて被検者が割り当てられることで、治療方法と、報告された治療結果との関連性について、最も信頼できるエビデンスを得ることができる。
要点
水道水、蒸留水、煮沸後に冷ました水、または生理食塩水による創傷洗浄を行った場合のそれぞれの比較と、洗浄を行わなかった場合とにおける比較が行われた。結果、これらの介入が創傷に感染を起こした数に影響したかどうかは不明であった。また、創傷の治癒(創傷が治癒した数、創傷の大きさの変化、創傷の治癒率)、かかった費用、痛み、あるいは患者の満足度に対し影響を与えたかどうかについても不明であった。
このレビューでは何が研究されたのか?
創傷は一般的に、感染を防ぐために洗浄が行われる。洗浄液には、水道水、蒸留水、煮沸後に冷ました水、あるいは生理食塩水が用いられる。水道水は入手しやすく、効率的かつ費用対効果が高いため、地域社会でよく使用されている。しかし、その使用については未解決の議論が存在する。このレビューでは、水による創傷の洗浄の効果について、異なる種類の水を使用した場合、生理食塩水を使用した場合、および洗浄をしなかった場合における比較が行われた。
異なる種類の水(水道水、蒸留水、煮沸水など)を用いた創傷洗浄を、洗浄を行わなかった場合、または他の液体(生理食塩水など)を使用した場合と比較したすべてのRCTがレビューの対象とされた。被検者は年齢層を問わず、病院、地域、介護施設、一般診療所、創傷クリニックなどあらゆる環境から参加した。また、歯科治療用や、火傷治療用の洗浄液について比較した研究は除外された。
このレビューの主な結果は?
本レビューには、13件のRCTの結果が含まれており、被検者は合計2,504人であった。被検者は、さまざまな種類の創傷を持つ成人または小児であり、地域社会、救急外来、または病棟において治療がなされていた。8件の研究では、水道水による洗浄と生理食塩水による洗浄が比較されていた。3件の研究では、水道水による洗浄と洗浄しなかった場合とが比較されていた。2件の研究では、蒸留水による洗浄と生理食塩水による洗浄とが比較され、また1件の研究では、冷ました煮沸水による洗浄に対し、生理食塩水による洗浄、および蒸留水による洗浄とが比較して評価されていた。
水道水、蒸留水、煮沸後に冷ました水、または生理食塩水による創傷洗浄を行った場合のそれぞれの比較と、洗浄を行わなかった場合とにおける比較が行われた。結果、これらの介入が創傷に感染を起こした数に影響したかどうかは不明であった。また、創傷の治癒(創傷が治癒した数、創傷の大きさの変化、創傷の治癒率)、かかった費用、痛み、あるいは患者の満足度に対し影響を与えたかどうかについても不明であった。
介入の効果があるかどうか不明であった理由は、その効果を確実に評価するための十分な数の被検者がいなかったためである。また、実施された研究方法では、介入の効果が確実に反映されていない可能性もある。これは、被検者の治療への割り当て方法に対する不確実性が一因としてある。また、多くの被検者および医療従事者が、どの治療が行われているかについて認識していた可能性もある。
このレビューはどの時点のものか?
2021年5月20日までに発表された研究に基づくものである。
《実施組織》小泉悠、小林絵里子 翻訳[2022.10.06]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD003861.pub4》