レビューの論点
選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)が脳卒中の回復に与える影響は?
背景
脳卒中は身体障害の主な原因の一つである。脳卒中による障害には、トイレや洗濯、歩行などの日常生活に支障をきたすものがある。時には障害が重く、基本的な動作を行うために他人に頼るようになることもある(これを「依存」という)。以前、SSRI(脳内の化学物質のレベルを変化させることで作用する、通常、気分障害の治療に用いられる薬剤の一種)が脳卒中後の回復を改善するかどうかを調べることを目的としたコクラン・レビューはの更新版を発表した。
2019年の更新以降、2つの大規模な研究が完了しているため、このレビューのさらなる更新を行う必要がある。バイアスを回避するための厳密な方法(例えば、脳卒中患者が実薬とプラセボのどちらを投与されたかを評価者が知っているなど)を用いた、質の高い試験のみを主な分析対象とした。これらの研究を「バイアスリスクが低い」研究と呼んでいる。
また、SSRIの他の効果、例えば、腕や脚の脱力感の重症度の改善、気分、不安、認知、生活の質の改善、出血や発作などの副作用の有無などについても調べた。
研究の特性
合計で76件の研究が見つかり、脳卒中後1年以内の脳卒中患者13,029人を対象とした。参加者は幅広い年齢層であった。約半数の研究では、試験に参加するためにうつ病を発症していることが条件となっていた。期間、薬剤、投与量などは研究によって異なる。しかし、これらの研究のうち、バイアスのリスクが低かったのは6件のみで、これらの研究の参加者は、研究に参加するためにうつ病である必要はなく、すべて脳卒中後すぐにリクルートされていた。
主な結果
バイアスのリスクが低いこれら6件の研究のデータを統合すると、SSRIは障害や依存を軽減しなかった。SSRIは、将来のうつ病のリスクを約4分の1に減少させたが、発作のリスクをわずかに増加させ、また、骨折のリスクも増加させた。エビデンスは2021年1月までのものである。
エビデンスの質
障害、依存、骨折への影響については結果の信頼性が非常に高く、発作リスクへの影響については中等度の信頼性がある。
《実施組織》 阪野正大、冨成麻帆 翻訳[2021.12.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009286.pub4》